うちは室内飼育だから伝染病は大丈夫、なんて思っていませんか? 飼い主さんが外から病原体をもって帰ってきてしまうこともありますし、猫ちゃんがひょんなことで脱走して外でもらってくることもあります。ちょっとしたお出かけ時やベランダに出ることもあるし、外部接触の可能性はあるわけで、室内飼育だからといって感染のリスクがゼロとはいいきれないのです。
実際発症してしまうと怖い感染病、とくに猫風邪とよばれる感染症たちは、ワクチン接種することで予防できます。感染したとしてもその発症を防ぐことができ、また万が一発症しても症状が軽症で済むのです。ほかの猫ちゃんに病原体を移すということも防げます。ワクチン接種(予防接種)は、飼い主さんがきちんと管理してあげたいことのひとつです。

ワクチン接種って?

人間であれ動物であれ、細菌やウイルスに感染して、病原体が体に入ってくると、その病原体に対する免疫(抗体)が体内に生まれ抵抗力がつきます。この原理を応用したのがワクチンによる予防接種です。

ワクチンとは、病原体の一部、ないし病原体の毒性を弱めたり、無毒化したりしたものが入っている薬液のことです。ワクチンを打つと、体内では病原体が入ったときと同じようなことが起こり、その病原体に対する抗体が大量に作られます。抗体は病原体を攻撃して破壊するので、次に本当の病原体が入ってきたとしても、発病する前に病原体を破壊できるというしくみです。人間も成長に応じて、いくつかの予防接種を受けますよね。猫も同じことで病気を予防できるというわけです。

ワクチン接種の種類

猫に行うワクチン接種には、その組み合わせによって、いくつかの種類があります。

病名 3種
混合
4種
混合
5(7)種
混合
FIV
単独
猫ウイルス性鼻気管炎  

猫カリシウイルス感染症

(猫風邪)

 
猫汎白血球減少症  
猫白血病ウイルス感染症    
猫クラミジア感染症      
猫免疫不全ウイルス感染症
(猫エイズ)
     

さらに外出の機会がある猫には「猫白血病ウイルス感染症」を加えた4種混合ワクチンを接種します。「クラミジア感染症」も加えた5種混合ワクチン、またたくさんのパターンがあるといわれる猫カリシウイルスで3パターンを予防できる7種混合ワクチンといった種類があります。3種混合ワクチンでは、いわゆる「猫風邪」と呼ばれる、「猫ウイルス性鼻気管炎」「猫カリシウイルス感染症」という感染症、そして「猫汎白血球減少症」を予防できます。これらの病気は、空気・飛沫および接触感染するので、完全室内飼育をしている猫でも接種すべきワクチンです。

また猫エイズと呼ばれる「猫免疫不全ウィルス感染症」には、単独のFIVワクチンを接種します。WSAVA(世界小動物獣医師会)では、FIVワクチンの効果について否定的な意見も出ているため、接種を検討する際にはかかりつけの獣医師に相談しましょう。

ワクチンで防げる病気

猫ウイルス性鼻気管炎

猫ウイルス性鼻気管炎」は、猫風邪の一種。猫ヘルペスウイルスが原因で、症状としてはくしゃみ鼻水発熱目やにが見られます。進行すると鼻がつまって慢性副鼻腔炎や呼吸困難、気管支炎から肺炎になったりもします。また目の表面にある「角膜」に炎症を起こすこともあります。この感染症は完治させないと、ウイルスが一生体に残り、再発することもあります。

猫カリシウイルス感染症

猫カリシウイルス感染症」は猫カリシウイルスが原因の感染症で、猫風邪の一種です。初期には、目やによだれ、涙、くしゃみなどが見られ、かなり重症化すると口内炎や舌に潰瘍ができ、食べることができなくなってしまいます。「猫ウィルス性鼻気管炎」との併発が多くみられます。

*もっと詳しく知りたい方は、『猫カリシウイルス感染症』をご覧下さい!

猫汎白血球減少症

猫汎白血球減少症」は、「猫伝染性腸炎」、あるいは「猫ジステンパー」とも呼ばれます。重度の腸炎を起こす病気で、高熱や激しい下痢や嘔吐によって脱水症状になって衰弱していきます。パルボウイルスが原因で、猫の排泄物などから感染し、感染した場合の致死率も高いといわれています。腸などに炎症が起き、白血球が急激に減少。免疫力の低下により敗血症を起こし、全身の臓器が機能しなくなります。

猫クラミジア感染症

猫クラミジア感染症」は、クラミジア病原体に感染することが原因で発症する猫風邪の一種。くしゃみ鼻水のほかに、咳が出て、目やにや涙が出るなど粘膜の異常、とくに結膜炎の症状が激しいのが特徴です。症状が軽いうちに対処すると、すぐに治りますが、万が一重症化すると死亡してしまうケースも。人獣共通感染症の一つではありますが、一般的な人間の結膜炎は同じクラミジアの仲間でもタイプが異なります。

*詳しくは、『猫クラミジア感染症』をご覧ください。

猫白血病ウイルス感染症

猫白血病ウイルス感染症」は、貧血、下痢、発熱、口内炎、リンパ節の腫れ、リンパ腫白血病などが見られ、一度発病すると完治することがなく、致死率が非常に高い伝染病です。唾液やケンカの傷から、あるいは母子感染によって感染します。

*詳しくは、『猫白血病ウイルス(FeLV)感染症って?治療はどうするの?』をご覧下さい。

猫免疫不全ウイルス感染症

通称「猫エイズ」。喧嘩などの血液感染や母子感染などで、キャリアの猫から感染します。エイズを発症すると、免疫機能が低下することで、口内炎などの口の中の疾患から始まり、嘔吐・下痢・体重減少・カゼなど、さまざまな症状が出はじめ、悪性腫瘍などにもかかりやすくなります。

 

おうちに猫ちゃんを迎えたら、まずは獣医師と接種時期や健康状態をよく相談しながら予防接種のスケジュールを決めていきましょう。生後1歳までは、2~3回、そのあとは、一年に一度の予防接種が基本です。生後すぐの子猫の場合は、母猫の初乳を飲んだかどうかで、予防接種の回数が変わりますので、獣医師に相談してみてください。

 

*本記事:に関連する「にゃんペディア」獣医師監修記事もあわせてご覧ください。

□ 猫風邪「猫風邪の症状って?治療法も解説

□ 猫ヘルペスウイルス1型感染症:「猫ウイルス性鼻気管炎

□ 猫カリシウイルス:「猫カリシウイルス感染症

□ 口内炎:「猫の口内炎

□ 猫白血病ウイルス(FeLV):「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症とは?治療はどうするの?

□ 猫クラミジア:「猫クラミジア感染症

□ 結膜炎:「 猫の結膜炎

□ 猫エイズ(FIV):「猫エイズに対する正しい理解で、愛猫を幸せに

 

 

★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

 

下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

 

【治療】

■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い  ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり 

【症状】

■ 初期は無症状が多い ■ 病気の進行が早い ■後遺症が残ることがある

【対象】

■ 子猫に多い ■ 高齢猫に多い ■男の子に多い   ■女の子に多い  

【季節性】

春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい

【発生頻度】

■ かかりやすい病気 ■めずらしい病気

【うつるか】

■ 犬にうつる ■ 人にうつる ■ 多頭飼育で注意 

【命への影響度】

■ 命にかかわるリスクが高い

【費用】

■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額

【予防】

■ 予防できる ■ワクチンがある

 

 

☞うちの子おうちの医療事典で本記事に関連する病気を調べてみましょう。

猫ウィルス性鼻気管炎

肺炎

猫カリシウイルス感染症

口内炎

猫汎白血球減少症

猫クラミジア感染症

結膜炎

猫白血病ウイルス感染症

貧血

リンパ腫

白血病

 

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東京猫医療センター 院長

服部 幸

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