猫は高いところへジャンプで昇り降りしたり、おかしな姿勢で飛び降りてもきれいに着地したりと高い運動能力を見せてくれます。そのため猫は骨折とは縁がないように感じると思います。実際に、猫は犬と比較するとその柔軟性、特に脊椎の可動域が大きいことから、整形外科疾患に陥りにくいとされています。(※1)

(※1)Budsberg SC. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 1997 Jul;27(4):815-23.

 

しかし近年、都会の飼育事情や犬と比較した飼育の簡便性から猫の飼育数が増加(※2)し、猫全体の骨折治療例が増加していることを肌で感じています。飼い主さんの飼育方法の改善や獣医療の進歩から寿命が長くなっているため、特に中・高齢の猫の骨折治療例が増加していることを実感しています。

(※2)2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人 ペットフード協会)

 

グラフ1は、アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」の2019年1月~2021年12月の保険金請求データから、犬猫の年齢別に「骨折による保険金請求」の割合をグラフにしたものです。猫は犬ほど顕著ではありませんが、子猫期(0~1歳)と、高齢期(特に12歳)での割合が高くなっています。

 

<グラフ1:年齢別の「骨折」による保険金請求率>

 

猫の骨折の原因で要注意は「高所落下」と「室内事故」

猫の骨折の原因は、古くは「交通事故」で多く、現在は「高所落下事故」、「室内事故」が挙げられます。交通事故では、骨折のみならず、呼吸器や泌尿器などの腹腔内臓器、神経にダメージを負ってしまうことが多くあり、一般的な骨折治療だけでなく全身状態の改善も必要となります。交通事故は、完全室内飼育の増加によって減少していますが、猫の外遊を予防するように気をつけましょう。

 

高所(2階以上の高さ)からの落下事故に関連する骨折は、近年の住宅事情から増加しており、6階以上の高さからの落下はより大きな怪我につながるとされ(※3)、7階以上からの落下で呼吸器障害をよく起こす(※4)とされます。比較的低所(2−3階)からの落下では、四肢の骨折が生じやすいとされています。

マンションや2階以上に愛猫が生活している場合は、窓の開閉などに気をつけ、転落防止対策を施しましょう。

(※3)Journal of the American Veterinary Medical Association. 1987 191(11): 1399-403

(※4)J Feline Med Surg. 2004 Oct; 6(5): 305-12.

 

 

「室内事故」で多く感じられるのは、

カーテンに絡まって落下

壁をずり落ちながら落下

単純落下による骨折

です。骨折部位は四肢のうち、1箇所のみの骨折であることがほとんどです。この室内の落下事故については、予防策を講じることはなかなか難しいと考えられますが、子猫期についてはケージの隙間に足が入らない目の細かなケージを選ぶ、猫がのぼる場所やその周辺に余計なものを置かないなど、打てる手は打っておきましょう。

 

 

猫の骨折を自然治癒に任せるとどうなるの?

ネコちゃんの場合、骨折をしたときに「自然治癒」をご希望される飼い主さんがいらっしゃいます。ネコちゃんは骨折してもゴロゴロ音が骨の再生を助けるという噂もあるせいか、検索サイトで「猫 骨折」と検索すると、続いて「自然治癒」や「治療費」「安静」「ゴロゴロ音」などの候補となるキーワードが出てきます。骨折したネコちゃんの飼い主さんの「自然治癒」への関心の高さが伺えますが、もし骨折した子を「自然治癒」に任せるとどうなるのでしょうか?

 

「自然治癒」に任せた場合には、写真1(骨盤骨折・骨盤管狭窄)を代表するように、

骨は治癒するものの、生活が不自由になる

場合があります。

<写真1:骨盤骨折>

 

骨が変形してしまった場合は、その形を治してあげる必要(矯正骨切り術)がありますが、初回に手術による治療を選択されなかった場合は、矯正骨切り術を選択されることは少ないと感じます。動物は話すことができないため、骨が変形してしまった場合でも、その不自由さを表現できません。そのため、

可能な限り骨折がわかった段階で「手術を選択」されることをおすすめ

します。また、

手術を実施する・しないを問わず「骨癒合」が確認されるまではネコちゃんの「安静」が必要

です。

この「安静」とは、骨折治療を施した部分に過度な負荷がかからないようにするために行うものです。ケージの中にずっといるとかわいそうになってしまいますが、

固定具や固定した骨の許容限度を超える力が掛かってしまうと、その固定が破綻したり、治癒が遅れる原因

となります。ネコちゃんがケージの必要性を理解できるわけではないので、少しでもストレス解消になることしてあげるように心がけましょう。

例えば、

ケージを机の上、窓際など(※必ず落下しないように固定してください)ネコちゃんが何か観察して飽きない場所に

おいてあげてください。

 

 猫の骨折の治療日数や診療費は?

骨折したネコちゃんが「骨癒合」する(=骨がくっつく)までの期間は安静にしなければなりませんので、飼い主さんもネコちゃん自身も大きなストレスになります。

アイペット損保の5年間の保険金請求データ(ペット保険「うちの子プラス」、「うちの子」のご契約に関する2017年1月~2021年12月)から「骨折に係る保険金請求」を対象に、該当期間内における、折した子の最初と最後の治療日の差分を、『骨折の平均治療日数』として概算すると図1のように、

ネコちゃんでも約2か月の54.9日

となっています。

 

<図1:骨折の平均診療費と平均治療日数>

骨折診療費・治療日数

 

<図2:通院日数の差>

また、通院日数については(図2参照)、アイペット損保の5年間の保険金請求データ(ペット保険「うちの子プラス」「うちの子」のご契約に関する2017年1月~2021年12月)の概算で、骨折したネコちゃんの平均通院日数は12.9日と、通院経験のある子の平均通院日数(9.4日)よりも3.5日ほど多くなっていました。

 

気になる骨折の診療費ですが(図1参照)、アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2017年1月~2021年12月の保険金請求データを対象に、「通院1日、入院1回」を「1件」とした場合の概算では骨折した子の平均では1件あたり46,432円と、1件あたりの平均診療費12,128円よりも高額となってしまっています。

 

 

猫種別の骨折発生率~平均より高い描種(1~15位)に注意

次に猫種別の骨折の発生状況について、アイペット損保の3年間の保険金請求データ(ペット保険「うちの子プラス」、「うちの子」、「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出)を対象に調べてみると、保険金請求件数に占める骨折請求件数の割合が全猫種の平均値(0.44%)より高い猫種は、図3のような結果となりました。(※猫種によってご契約件数が少ない猫種もありますので、ここでは500頭以上のご契約がある猫種について掲載しています。)

 

●骨が丈夫そうな大型の猫種でも要注意!

メインクーン」「ノルウェージャンフォレストキャット」「サイベリアン」「ラガマフィン」など、大柄で骨太、筋肉質で丈夫そうな猫種であっても、自らの体重の重さによって骨折に影響している様子が伺えますので、体重の重いネコちゃんは注意が必要です。

 

<図3:骨折による保険金請求の割合が平均より高い猫種>

猫種別骨折発生率

※アイペット損保のペット保険「うちの子プラス」「うちの子」「うちの子ライト」のご契約に関する2019年1月~2021年12月の保険金請求データより算出。

※500頭以上のご契約がある猫種について掲載。

 

★写真をクリックすると「猫種別飼い方ガイド」の解説で、猫種別の「かかりやすい病気やケガ」など飼い方のポイントをご一読いただけます。(一部対応していない猫種があります)

 

1位  <スコティッシュストレート>

スコティッシュストレート

 

2位 <メインクーン

メインクーン

 

3位 <ベンガル

ベンガル

 

4位 <ソマリ

ソマリ

 

5位 <ノルウェージャンフォレストキャット

ノルウェージャンフォレストキャット

 

6位 <アビシニアン

アビシニアン

 

7位 <シャム/サイアミーズ

シャム

 

8位 <セルカークレックス

セルカークレックス

 

9位 <サイベリアン

サイベリアン

 

10位 <ラガマフィン

ラガマフィン

 

11位 <ロシアンブルー

ロシアンブルー

 

12位 <アメリカンカール

アメリカンカール

 

13位 <シャルトリュー

シャルトリュー

 

14位 <シンガプーラ

シンガプーラ

 

15位 <混血猫

混血猫

 

 

このように、いかに運動能力の高いネコちゃんといえども、骨折してしまうと、治癒までの安静が必要な日数の長さや、治療費の高さなどを考えると、骨折させない環境づくりを講じることが肝要です。

 

詳しくは

猫が骨折したらどうすべき?症状の見極め方から手術の費用まで【獣医師解説】

猫の骨折・猫の脱臼【獣医師解説】

のにゃんペディア記事を合わせてご覧ください。

 

 

★「骨折発生率の高かった猫種」について「にゃんペディア」の猫種別記事をご覧ください。

世界一の大きさを誇る猫、「メインクーン」の性格や体重、鳴き声は?【獣医師監修】

エネルギッシュな性格の猫ベンガル」! どんな特徴なの?【獣医師監修】

ソマリってどんな猫? 性格や毛色、その特徴【獣医師解説】

ノルウェージャンフォレストキャットの体重や毛色をご紹介します!【獣医師監修】

アビシニアンの性格は?毛色の特徴などをご紹介します!【獣医師監修】 

◇ タイ生まれの猫「シャム(サイアミーズ)」の性格や特徴は?【獣医師監修】

◇ 巻き毛が特徴!「セルカークレックス」の性格は?抜け毛は多いの?【獣医師監修】

◇ ロシア生まれ最大級のイエネコの「サイベリアン」、性格や大きさ、体重は?【獣医師監修】

◇「ラガマフィン」の性格や大きさ、体重はどのくらい?【獣医師監修】

◇ 「ロシアンブルー」の性格は嫉妬深い?!目の色や飼い方は?【獣医師解説】

◇ くるんとした耳が特徴!「アメリカンカール」の性格や大きさなどを解説【獣医師監修】

◇ 目の色が特徴!「シャルトリュー」の性格や大きさは?【獣医師監修】

◇ 最小の猫「シンガプーラ」の大きさや体重などを解説!【獣医師監修】

 

 

★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

 

うちの子おうちの医療事典

 

例えば、下記のようなさまざまな切り口で、病気やケガを調べることができます。健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。リンクをクリックして調べてみてください。

 治療  症状
 □ 再発しやすい  □ 初期は無症状が多い
 □ 長期の治療が必要  □ 病気の進行が早い
 □ 治療期間が短い  □ 後遺症が残ることがある
 □ 緊急治療が必要  
 □ 入院が必要になることが多い   対象
 □ 手術での治療が多い   □ 子猫に多い
 □ 専門の病院へ紹介されることがある  □ 高齢猫に多い
 □ 生涯つきあっていく可能性あり   □ 男の子に多い
   □ 女の子に多い
 予防  
 □ 予防できる   うつるか
 □ ワクチンがある  □ 人にうつる
   □ 多頭飼育で注意
季節  □ 犬にうつる
 □ 春・秋にかかりやすい  
 □ 夏にかかりやすい 費用
   □ 生涯かかる治療費が高額
発生頻度   □ 手術費用が高額
 □ かかりやすい病気  
 □ めずらしい病気 命への影響
   □ 命にかかわるリスクが高い

 

動物外科診療室 東京(VST)院長 木村動物病院 院長
動物外科診療室 東京(VST)院長 木村動物病院 院長

木村 太郎

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