私たちの生活の中で、よく「立ちくらみ」と同義語で使われている「貧血」。しかし厳密に言うと、貧血と立ちくらみは全く異なる状態で、貧血の方が命に関わることが多いのです。ここでは猫が貧血になる原因は一体なんなのか、どのような治療が必要なのかを解説します。
貧血と立ちくらみの違い
血液のはたらき
脳や筋肉、内臓などの組織が活動するためには、酸素が必要です。血液の中に存在している赤血球が、様々な組織に酸素を送ってくれることで、体の隅々まで酸素が行きわたり、生きていくことができるのです。
立ちくらみは貧血のこと?
立ちくらみは寝ている状態から急に起き上がったり、ずっと起立していたりすると、目の前が真っ暗になったり、目が回ったりする状態のこと。これは低血圧などで脳に十分な血液(酸素)が行き届かなかった時に起こる現象で、脳貧血と呼ばれたり、起立性低血圧と呼ばれたりしますが、厳密には貧血とは関係がありません。貧血というのは赤血球そのものの数が減少してしまった状態のことを言います。酸素を供給するための赤血球が減ってしまい、様々な症状を引き起こします。
貧血によって引き起こされる症状とは
貧血の初期症状としては、以下のようなものが見られます。
□ 何か元気がなくなる
□ 運動が苦手になる
□ 食欲不振
さらに進行すると、呼吸が苦しそうになったり、歯茎などの粘膜が白っぽく見えるようになったりします。最終的には昏睡から死に至る、非常に危険な状態です。
貧血を起こす原因は?
貧血を引き起こす要因は大きく分けると3つあります。それぞれの状態によって考えられる原因が異なります。
□ 体外に血が出てしまう(出血)
□ 体内で赤血球が破壊されてしまう(溶血)
□ 赤血球を作ることができなくなる
体外に血が出てしまう(出血)
大きな怪我をしたり手術をして傷口からの出血した場合、当然必要な血液量が足りなくなるので貧血が起こります。ちなみに消化管潰瘍(胃潰瘍など)や消化管の腫瘍(リンパ腫や腸腺癌など)から、慢性的に出血して貧血が起こることもあります。
体内で赤血球が破壊されてしまう(溶血)
溶血とは赤血球が体内で壊れてしまう状況です。赤血球が破壊される原因として以下に代表的な病気を記載します。
中毒による貧血
玉ねぎ、ネギ、ニラ、ニンニクなどのネギ類には、猫の赤血球を破壊するアリルプロピルジスルファイドという成分が含まれています。そのため猫がネギ類を食べると、赤血球が破壊されて貧血になってしまうのです。他にも、人間の風邪薬や痛み止めに含まれているアセトアミフェンにも同じような毒性があります。
病原体による貧血
ヘモプラズマという病原体に感染すると、貧血を引き起こします。ヘモプラズマは猫の赤血球に寄生して破壊してしまう病原体で、マダニやノミ、さらにはヘモプラズマに感染している猫を介して感染するとされています。感染した猫とのケンカによる傷や母子感染でうつることから、別名「猫伝染性貧血」とも言われています。
免疫病による貧血
ウイルスや細菌などの異物が体内に侵入すると、それらを攻撃してやっつけてくれるのが免疫機能です。しかし、猫白血病ウイルス(FeLV)感染や腫瘍などの病気にかかると、免疫機能が正常に働かなくなることがあります。自身の赤血球を異物と認識してしまい、赤血球を攻撃してしまうことがあるのです。免疫介在性溶血性貧血(IMHA)と呼ばれる、いわゆる免疫病の1つです。
赤血球を作ることができなくなる
赤血球にも寿命があります。猫の赤血球の寿命は約90日。そのため、血液中の赤血球の数を一定にしておくためには、常に赤血球を作り続ける必要があるのです。血液中の赤血球の数が少なくなると、腎臓から「赤血球を増やして!」という指令が出されます。それを受けて、骨の中にある骨髄という部分が赤血球を作り出します。この一連の流れがうまく機能しないと、赤血球の製造がストップして、貧血になってしまうのです。
慢性腎臓病
赤血球の数が減った時、赤血球を増やすように指示を出すのが腎臓です。しかし、慢性腎臓病などで腎臓がダメージを受けてしまうと、このサインを出すことができなくなります。サインが出てこない限り骨髄は動けないので、慢性腎臓病の猫が貧血になることはよくあります。
鉄分の不足
赤血球を生成するためには鉄分が欠かせません。そのため、鉄分が不足していると赤血球を作ることができなくなります。成長期や妊娠期など、通常以上に鉄を必要としている時期に偏った食事をしていると起こることがあります。また、慢性的な消化管出血やノミなどの外部寄生虫の大量寄生でじわじわ血液が失われていくと、鉄分も徐々に失われていき、貧血を引き起こすことがあります。
猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス症(FIV)
猫白血病ウイルス(FeLV)や、猫免疫不全ウイルス症(FIV)のウイルスが骨髄に感染して発症すると、骨髄がうまく働けなくなってしまって、赤血球の生産が低下してしまうことがあります。この他にも貧血になる原因は様々で、内分泌疾患による貧血、赤芽球癆(セキガキュウロウ)、再生不良性貧血、非再生性免疫介在性溶血性貧血、骨髄増殖性疾患などが考えられます。
*猫白血病ウイルス(FeLV)については「猫白血病ウイルス(FeLV)感染症とは?治療はどうするの?」で詳しくご紹介しています。
診断のつけ方
貧血かどうかは血液検査で赤血球の数を調べればすぐにわかります。貧血であるかどうかを確認することは比較的容易ですが、貧血を引き起こしている原因を探るのは大変なケースもあります。上記で説明した通り、貧血を引き起こす原因はいくつも考えられるからです。原因を究明するためには、まず赤血球の年齢を調べます。赤血球が若いか、それとも生まれてしばらく時間が経っているのかどうかは、顕微鏡で見分けることができます。もし、骨髄などの製造機能に問題があって、赤血球を新たに作り出せなくなっている場合には、若い赤血球の数は少ないはずです。一方で、製造機能が落ちていないにも関わらず貧血になっている場合は、貧血状態をなんとかしようと新しい赤血球を多く作り出すため、若い赤血球の数が増えます。つまり、若い赤血球の数が多いと、出血か溶血による貧血だと判断することができるのです。そしてその先は、レントゲン検査や超音波検査、骨髄検査などを組み合わせて、何が原因になっているのかを確認していきます。
猫の貧血は治る?
貧血を引き起こしている原因をきちんと特定できて、その原因を取り除くことができれば貧血は改善されます。しかし、中には完治が難しいものもあります。例えば出血が原因の貧血は、血を止めることができれば回復します。しかし、猫白血病ウイルス(FeLV)により骨髄の機能が低下してしまった場合は、回復が難しいことが多いです。
貧血の治療はどんなことをするの?
貧血状態を改善するには、貧血を引き起こしている病気の治療が必要です。慢性腎不全が原因になっている場合は慢性腎不全の治療をしますし、中毒が原因で貧血になっている場合には、中毒のための治療をします。貧血の原因によって治療法はまちまち。あまりにも貧血がひどい場合には輸血をすることがあります。他の猫からもらった血液を貧血の猫に輸血するので、稀に副作用が出る場合もあり、十分に注意する必要はありますが、時間稼ぎをするためには有効です。
*「にゃんペディア」獣医師監修の関連記事☞「輸血するための猫「供血猫」をご存知ですか?」
愛猫が貧血だと診断されたら・・・
「貧血なら鉄分の多い食事を与えよう」と考える方もいるかもしれませんが、上記でご説明した通り、貧血を引き起こしている原因によって必要な対処法が異なります。ウイルスや中毒が原因で貧血を起こしている場合には、鉄分を補給しても全く効果はありません。また、鉄分の不足が原因で貧血を起こしている場合でも、必要なのは薬としての鉄剤を飲ませることです。安易な食事療法は効果が見込めないので、必ずかかりつけの獣医さんに相談して、対処するようにしましょう。
猫の貧血は予防できる?
お家の中で暮らしている猫が貧血になる原因として考えられるのは、怪我などで出血をした時か、玉ねぎなどのネギ類を誤って食べてしまった時でしょう。特にネギ類を間違えて食べてしまった場合は要注意。玉ねぎやネギを好んで食べる猫はあまりいないと思いますが、ハンバーグなど、玉ねぎの含まれた料理は喜んで食べる子も多いはず。そのような食材を放置しないようにくれぐれも注意して下さい。またニンニクは好んで食べる子もいるので、こちらもきちんと管理しておく必要があります。『猫に玉ねぎはNG!恐ろしい玉ねぎ中毒』の記事も参考にしてください。
様々なことが原因で引き起こされる猫の貧血。命に関わるケースもあるため、きちんと原因を解明した上で、適切な処置が必要です。まずはかかりつけの獣医さんに相談しながら、きちんと検査を受けて、貧血の原因を把握しましょう。
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