大きな病気や怪我をして手術をするとき、あるいは貧血性の病気の治療をするときは、人間同様、猫ちゃんも輸血が必要なことがあります。人間の場合は全国各地に日本赤十字社の血液センターがあり、そこから輸血に必要な血液が届きますが、動物用の血液センターは日本には存在しません。

猫ちゃんの血液は長期間保存することは難しいため、手術の機会が多い大規模な動物医療機関の中には、輸血用の血液を提供してくれる猫ちゃんたちを生活させているところもあります。このように献血に協力してくれる猫ちゃんのことを「供血猫」と言います。

また、動物病院によっては、飼い主さんたちに自身の猫ちゃんを供血猫としてドナー登録をお願いし、必要が生じた場合に、血液を提供してもらっています。あるいは、血液型の合う知人の猫ちゃんにお願いし、献血してもらう飼い主さんも多いようです。

今回はそんな「供血猫」をはじめとした、猫ちゃんの輸血事情について紹介します。

猫ちゃんの血液型は3種類

人間の血液型はA型、B型、O型、AB型の4種類ありますが、猫ちゃんの血液型はA型、B型、AB型の3種類に分類され、O型は存在しません。7〜8割の猫ちゃんはA型で、B型は猫種によっては少数存在し、AB型は非常にまれだと言われています。

人間の場合と同様、異なった血液を輸血すると副作用が発生します。特に、B型の猫にA型の血液を輸血すると非常に強い拒絶反応(急性溶血反応)を起こし、命の危険を伴います。

緊急の場合に備え、自分の猫ちゃんの血液型はきちんと把握しておいた方がいいでしょう。

血液型

献血に必要な条件

血液を提供したいと思っても、どんな猫ちゃんでもできるわけではありません。供血猫としてドナー登録するためには、年齢、体重、健康状態などを含め、幾つかの条件があります。主なものは以下の通りです。

注射器

 

・年齢:1〜7歳

・体重:4キロ以上

・健康である

混合ワクチンの接種を毎年受けている

猫免疫不全ウイルス(FIV)猫白血病ウイルス(FeLV)が陰性である

・雄:交配予定がない

 雌:出産経験がなく避妊をしている

・完全室内飼いで、屋外猫との接触がない

・輸血を受けたことがない

・病院に慣れている

・採血時におとなしくしていられる

 

供血を行ったあとは、次の供血まで約1~2ヶ月空けることが必要となります。

採血の流れ

もし自身の猫ちゃんが上記の条件を満たしていて、供血猫として協力したいと考えるなら、まず近くの動物病院に問い合わせてみましょう。そこでドナー登録を呼びかけていれば、身体検査と血液検査を受けた上で、問題がなければ「供血猫」として登録できます。

実際の献血の流れを大まかに紹介します。

獣医と猫

 

輸血が必要になった場合、病院から連絡が入ります。場合によっては夜間のこともあるかもしれません。

動物病院で検査のための採血(約4cc)を行い、輸血される側の猫ちゃんとの血液適合チェックが行われます。これを「クロスマッチテスト」と言います。

血液が適合すれば、供血が行われることになり、まず採取する首筋部分の被毛を剃ります。

採血時間は10分程度。採取する血液量は体重の約1%に相当する量で、40〜50mlぐらいになります。通常は無麻酔で行いますが、軽い鎮静剤を使用する場合もあります。

採血終了後、採血量と同量の点滴を行います。さらに採血部位に異常がないかなどを含め体の状態をチェックし、問題がなければその日のうちに帰宅できます。その際、鉄剤などの薬が処方されます。

 

各動物病院では、供血してくれた猫ちゃんへのお礼として健康診断や、ワクチン接種などを無料で行っているようです。

病院で暮らす供血猫ちゃんもいる

規模の大きな動物医療機関では、手術の機会も多いため、輸血用の血液が緊急で必要になることもあります。そうした場合に備え、病院内に血液を提供してくれる「供血猫」たちが暮らしています。

病院によって異なりますが、供血猫となる猫ちゃんたちは、動物病院の前に捨てられていたり、里親が見つからなかった猫ちゃんたちがほとんど。そうやって保護された猫ちゃんの中で、上記のような条件を満たす健康な子たちが供血猫として活躍しているのです。

供血猫たちも供血をすること以外は、普段の生活ができます。そのため、来院する猫ちゃんたちがいない時間はケージの外に出て遊んだり、病院内を動き回ったりするなどしながら自由に暮らしている供血猫ちゃんたちも多いそう。動物病院で働くスタッフの愛情をたっぷり受けて、過ごしているんですね。

 

そうして頑張った猫ちゃんを紹介する本があります。それが、『空から見ててね いのちをすくう“供血猫”ばた子の物語』です。著者のはせがわさんがトリマーとして勤務する病院で「供血猫」としてたくさんの猫ちゃんの命を救った“ばた子ちゃん”の生涯が描かれています。

『空から見ててね いのちをすくう“供血猫”ばた子の物語』(はせがわ まみ・著/集英社みらい文庫・刊)

 

小さなからだで多くの猫ちゃんたちの命を救っている供血猫たち。まだまだ存在自体、知らない方が多いのではないでしょうか?猫ちゃんに輸血をするときには、血液を提供してくれている猫たちがいることを、ぜひ覚えておいてください。

 

 

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☞例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

手術での治療が多い

手術費用が高額

入院が必要になることが多い

緊急治療が必要

専門の病院へ紹介されることがある

命にかかわるリスクが高い

 

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東京猫医療センター 院長

服部 幸

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