猫を飼っている人なら、一度は「腎不全」という病名を聞いたことがあるのではないでしょうか。猫の腎不全(腎臓病)高齢猫の死因で最も多いもので、飼い主さんが知っておかなければならない病気の一つでもあります。ここでは、猫の腎不全(腎臓病)の概要、原因、治療法などについて解説します。

 

猫の腎不全(腎臓病)とはどんな病気?

腎臓の働き

体中をめぐる血液は、各組織に必要な酸素や栄養素を渡し、かわりに老廃物を受け取ります。そしてその老廃物を受け取った血液は腎臓で浄化され、キレイな血液になって再び全身をめぐります。腎臓でこされた老廃物は、腎臓の中でさらに濃縮され、尿として膀胱を通りからだの外へ排出されます。

 

腎臓の機能は大きくわけると3つ

□ 老廃物をこしとる「浄化機能」

□ 必要な水分やミネラルを体にもどす「再吸収機能」

□ 血液を作る指令を出す「造血の指令」

 

腎臓機能が低下すると・・・

浄化機能の低下による老廃物の蓄積

腎臓の浄化機能が低下すると、老廃物をうまく体の外へ排泄できなくなります。排泄できない老廃物がどんどん体内に溜まってしまい、「尿毒症」を引き起こします。少しずつ元気や食欲がなくなっていき、重症化すると、他の内臓の機能にも悪影響を起こすようになって、最終的には死に至るのです。

再吸収機能の低下による脱水症状

腎臓は老廃物をこしとった液体から、体に必要な成分を再吸収する機能があります。特に、水分は大量に再吸収して体に戻す必要があり、この再吸収機能が落ちてしまうと、尿として水分が大量に流れ出てしまい、脱水してしまうのです。
血液の大部分は水分ですから、脱水すると血液の流れが悪くなります。血流が悪くなることにより、体内にたまっている老廃物を腎臓に届けることすら難しくなり、より体調は悪化してしまいます。

造血の指令が低下する貧血症状

腎臓は様々なホルモンを分泌しているのですが、そのうちの一つに「エリスロポエチン」というホルモンがあります。このエリスロポエチンは赤血球を作っている骨髄に働きかけ、赤血球を作るよう指示する役割を持っているのですが、腎臓の機能が低下することで、エリスロポエチンの分泌量も落ちていきます。エリスロポエチンが分泌されずに、生命活動を維持するのに必要な赤血球の数が足りなくなってしまうと、貧血になってしまうのです。

 

腎不全には「慢性腎不全(慢性腎臓病)」と「急性腎不全(急性腎障害)」がある

腎不全は、その経過から「急性」と「慢性」に分けられます。
今は慢性腎不全のことを「慢性腎臓病」、急性腎不全のことを「急性腎障害」と言うのですが、飼い主さんにとって馴染みのある「腎不全」という呼び方も同時に使われていることが多いようです。

高齢の猫に多い「慢性腎不全(慢性腎臓病)」は、老化などが原因でじわじわと腎臓の機能が落ちていきます。ゆっくりと進行していきますが、完治することはありません。上手に病気と付き合っていく必要があります。

対して、「急性腎不全(急性腎障害)」は突発的に発症し、急激に体調が悪化します。1日で亡くなってしまうこともあれば、数日で元気になり、今まで通りの生活が送れるようになる子もいます。

慢性と急性では原因や治療法が異なりますので、ここではそれぞれにわけて解説をしていきます。

 

猫の急性腎不全(急性腎障害)とは

急性腎不全(急性腎障害)の原因

なにかしらの原因により、腎臓の機能が急激に低下している状態です。腎臓が一気に機能しなくなるので、緊急性が極めて高く、早急に原因を取り除かなければ、死に至る場合もある危険な状態です。急性腎不全の原因は、大きく分けると2つあります。

尿の通り道をふさいでしまう病気

腎臓で濃縮された老廃物は、尿となって尿管を通り、一度膀胱に貯められます。膀胱に一定量の尿がたまると、尿道を通って体外に排出されるのですが、猫はこの尿の通り道が塞がりやすい生き物として知られています。尿管や尿道に結石が詰まったり、腫瘍ができたりして尿の通り道を塞いでしまい、物理的に尿を排出できなくなるのです。
そして詰まった尿が逆流して腎臓に戻ってきてしまうと、腎臓は本来の働きができなくなります。一切

おしっこを出せない状態が24時間続くと命の危険にかかわります

ので、猫ちゃんが毎日きちんとトイレができているかどうかは、必ず確認しておきましょう。

腎臓への細菌感染

腎臓が細菌感染することで腎臓の組織が炎症を起こした場合も、腎臓本来の機能が低下して急性腎不全を引き起こすことがあります。原因となる細菌は、歯周病の細菌がめぐりにめぐってきている場合もありますし、大腸菌からの感染を受けることもあります。

中毒

玉ねぎやユリなど、猫にとって危険な毒物を摂取してしまうと、中毒を引き起こして急性腎不全になる場合があります。毒物の摂取量が多ければ多いほど、血中に流れ出る毒物の量も増え、腎臓に負担がかかるのです。
急性腎不全を引き起こす毒物には、以下のようなものがあります。

□ ユリ

□ 玉ねぎ

□ 人間用の薬(頭痛薬や鎮痛剤など)

□ エチレングリコール

エチレングリコールは車の不凍液として用いられている化学物質で、車の修理工場などにあります。甘いにおいがするため、自由に外を歩きまわれる猫は舐めてしまうことがあります。また、凍らしても固まらないゼリー状の保冷材にもエチレングリコールが使われていることがあり、破って食べてしまうと中毒を起こす可能性があります。
実は、急性腎不全はこの中毒によるケースが最も多いのです。普通の家庭に置いているようなものが猫にとっては毒物になるので、飼い主さんは決して猫の口に入らないよう、しっかり管理をしておきましょう。

 

重度の脱水

他の病気などが原因で食欲が落ち、長い間食事をとれないようなときは、体内の水分が不足していきます。特に糖尿病甲状腺機能亢進症などの病気にかかっている場合は尿の量が増えるので、十分な量のお水を飲めないでいると、脱水状態に陥ってしまいます。
体内の水分が減ると、血液の量も減るということ。腎臓に流れ込む血液が激減することで、十分な酸素が腎臓に行き渡らなくなり、腎臓が機能しなくなってしまうのです。

 

急性腎不全(急性腎障害)の症状

急性腎不全になると、元気・食欲の消失、嘔吐などが突然出てくることが多いです。極端に腎臓の機能が落ちている場合には、おしっこの量が減ることもあります。急性腎不全の治療は時間との勝負。様子を見ているうちに手遅れになる可能性もありますので、できるだけ早めに病院に連れて行ってあげましょう。

急性腎不全(急性腎障害)の治療法

急性腎不全を引き起こしている原因を早急に取り除くことが治療の目的となります。
まず血液検査をして、腎臓の数値に異常があるかどうかを確かめます。毒物や薬物の摂取の有無を確認し、さらに超音波・レントゲンなどの様々な検査をして、どこに原因があるのかを突き止めます。

原因が中毒だった場合

摂取した毒物が消化・吸収されてしまうと、血液に乗って全身をめぐるようになります。体内から毒物を除去できればそれが理想ですが、毒物に対する解毒剤というのはほとんど見つけられていないのが現状です。
そこで、点滴をして体内の水分量を増やし、血流をよくする処置をとります。腎臓は体内の中でも解毒作用を持っている数少ない臓器の一つ。血液の流れを良くして腎臓に血液を送り込むことで、腎臓が持っている解毒作用を最大限に活性化させるのです。腎臓でしっかり解毒することができれば、体内の中毒物質は徐々に排出されていきます。

原因が尿路にある場合

結石などで尿が排泄できない状態になっている場合は、尿の通り道を作ってあげることを最優先します。結石であれば、尿道に管を通し、洗浄して洗い流しますが、それで流れない場合は手術を行うこともあります。手術ができない場合には、透析を行うこともありますが、透析ができる施設は限られているので、透析ができる病院かどうかは事前に調べてから行きましょう。

急性腎不全(急性腎障害)は治るの?

急性腎不全が回復するかどうかは、破壊された腎臓の割合にかかっています。腎臓は再生できない組織なので、一度破壊されてしまうと元に戻ることはありません。発見して治療するまでの時間や摂取した毒物の量、急性腎障害を起こした原因などによって、状況は大きく変わります。
摂取した毒物が少なかったり、早く治療することができれば、腎臓の破壊を最小限に食い止めることができ、治療から数日程度で回復して元通りの生活を送ることができるようになるでしょう。
しかし、中毒物質が多すぎたり、治療までに時間がかかりすぎてしまうと、腎臓の大半が破壊されてしまい、生命を維持するために必要な機能を果たせなくなります。そうすると毒物が排出できずに全身を巡り、そのまま死に至る場合もあります。また、腎臓の破壊された割合によっては、回復しない状態が長期間続き、そのまま慢性腎不全へと発展していく場合もあります。

 

猫の慢性腎不全(慢性腎臓病)とは

腎臓は尿を作る「ネフロン」という構造が集まってできています。ダメージによってネフロンが破壊されて著しく減ってしまうと慢性腎不全を発症します。

慢性腎不全(慢性腎臓病)の原因

ネフロンが壊れる原因としては、大きく2つあります。

猫の高齢化

炎症や感染、酸化などが原因でダメージを受けるので、加齢とともに正常に働くことのできるネフロンは減っていきます。もともとのネフロンの数が少ない猫は、犬や人に比べて慢性腎不全を起こすことが多く、15歳以上の猫では30%以上が慢性腎不全を発症していると言われています。

急性腎不全(急性腎障害)

中毒などの原因で起こる急性腎不全で、ネフロンが著しく破壊されると、回復しきらずに慢性腎不全になってしまう場合があります。

慢性腎不全(慢性腎臓病)の症状

慢性腎不全は、基本的には症状がゆっくりと進行します。猫の状態をきちんと観察しておけば悪化する前に気付くことができますので、日頃から以下のような症状がないか、しっかり観察するようにしましょう。

□ 大量に水を飲み、おしっこの量が増える

□ おしっこの色が薄くなる、においが弱くなる

□ 食欲が落ち、嘔吐の回数が増える

□ 体重が落ちる

□ 元気がなくなる

□ 便が硬くなり、便秘になる

□ 皮膚をつまんでも戻りにくくなるなど、脱水症状が見られる

□ 毛がボソボソになる

□ 口臭がきつくなる

□ 貧血により舌の色が白くなる

特に高齢の猫で、「最近よくお水を飲むようになったな」と感じたら要注意です。水を飲む量が増えているのかどうかを把握するためにも、日ごろから猫ちゃんが飲む水の量はチェックしておきましょう。

 

慢性腎不全(慢性腎臓病)の治療法

腎臓は再生しない臓器なので、慢性腎不全の場合、残っている腎臓の保護を目的としています。

療養食による治療

慢性腎不全の治療の柱は食事療法です。

腎臓に負担をかける、塩分・たんぱく質・リンを制限した食事

を与えます。一般食を食べている腎不全の猫に比べ、腎不全用の療法食を食べた猫では、余命が倍以上になるというデータがあります。腎不全の猫には食事療法が最も重要であると言っても過言ではありません。
ちなみに、このフードを健康な猫に与えても腎不全を予防できるわけではありません。療養食を使う場合は、必ずかかりつけの獣医さんと相談しながら与えてください。

投薬による治療

薬を投与することで、症状の進行をゆるやかにします。

腎臓はザルのような作りになっていて老廃物をこし出すのですが、腎臓が悪くなるとこのザルの網目が大きくなります。そして老廃物だけでなく、本来体に必要なはずのタンパク質までこし出てしまい、タンパク質が尿に漏れ出てしまうことがあります。体にとっては必要な栄養素であるタンパク質なのですが、実は腎臓にとっては悪影響を与える存在なのです。漏れ出たタンパク質によって腎臓がダメージを受けてしまうので、薬によってタンパク質が漏れるのを防ぎます。
また、弱っている腎臓で処理しきれない老廃物が体にたまってしまうと、尿毒症になり、より腎臓が壊れてしまいます。本来腎臓が浄化するはずの老廃物を、薬によって取り除くこともあります。

脱水を防ぐための点滴

慢性腎不全が疑われた場合、まずは血液検査をして、腎臓の数値に異常があるかどうかを確かめます。ただし、血液検査でわかるのは「腎臓に異常があるかどうか」ということだけ。高齢の猫で腎臓に異常があるとき、確かに腎不全が原因であることが多いのですが、まれに腫瘍や腎結石、嚢胞腎などが原因で腎臓に異常な数値が出ている場合があります。
腫瘍であれば、別の治療が必要となりますので、血液検査のほかにレントゲンやエコー検査をしてもらうことをオススメします。

慢性腎不全とうまく付き合うためにお家でできること

慢性腎不全はしっかり向き合ってあげれば、長生きしてくれることが多い病気です。もし愛猫が慢性腎不全になってしまったら、飼い主さんは以下のことに気をつけて、生活をサポートしてあげましょう。

水分摂取量を増やす

猫の飲水量を増やすことは、腎不全とうまく付き合っていくためには非常に重要です。食事の与え方や、お家の環境を少し変えることで水分摂取量を増やすことは可能です。こちらの記事を参考にして、水分摂取量を増やす工夫をしてみましょう。

腎不全の療法食を食べさせる

治療法にも記載しましたが、慢性腎不全の治療には「食事療法」が最も重要です。通常のフードと比べるとやや高額ではありますが、必ず腎不全用のフードを食べさせてあげましょう。

おやつに注意する

腎不全では、塩分・たんぱく質・リンを制限をする必要があります。肉や魚、かつお節などのおやつをたくさん食べてしまうと、せっかく腎不全用の食事を食べていても意味がなくなってしまいます。おやつは、獣医の先生とよく相談して食べさせるようにしてください。

腎臓は再生しない臓器のため、早期発見・早期治療が大切

になります。飼い主さんは猫の腎不全に対する正しい知識を身につけて、早めに症状に気付いてあげることが大切です。今はまだ若い猫を飼っている飼い主さんも、将来のことを考えて今のうちからしっかり腎不全の知識を頭に入れておきましょう。

 

 

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 例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

 

【治療】

■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い  ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり 

【症状】

■ 初期は無症状が多い ■ 病気の進行が早い ■後遺症が残ることがある

【対象】

■ 子猫に多い ■ 高齢猫に多い ■男の子に多い   ■女の子に多い  

【季節性】

春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい

【発生頻度】

■ かかりやすい病気 ■めずらしい病気

【うつるか】

■ 犬にうつる ■ 人にうつる ■ 多頭飼育で注意 

【命への影響度】

■ 命にかかわるリスクが高い

【費用】

■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額

【予防】

■ 予防できる ■ワクチンがある

東京猫医療センター 院長

服部 幸

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