何匹かの猫ちゃんを飼っている方にとっては、追いかけっこの「大運動会」はおなじみの光景かもしれません。そんな猫の習性は、昔も今も同じだったようで、実は、古典として名高い『源氏物語』にも、猫が登場する場面があります。
平安時代に紫式部が著した『源氏物語』は、宮廷を中心に繰り広げられる、主人公の光源氏をめぐる人々の物語で、全五十四帖の長編ですが、その中の第三十四帖「若菜上」では、猫が物語の展開に大きな役割を果たしています。
地位を上りつめ、権勢を誇る光源氏は、異母兄である朱雀院の娘、女三の宮と結婚します。光源氏は41歳、女三の宮は15歳前後という年齢差でした。光源氏には、長年連れ添った最愛の女性、紫の上がいましたが、天皇の血を引く女三の宮が正妻として迎えられたことで紫の上は心傷つき、その後病に倒れることになってしまいます。かたや、かねてより女三の宮に心を寄せていた男性、柏木(光源氏の友人でもある太政大臣の息子)も、思いを断ち切れずにいました。光源氏と女三の宮の結婚が、波紋を広げていきます。
そんな折、事件は起こります。ある春の日、光源氏と女三の宮が暮らす大邸宅の庭で、柏木を含む若い男性たちが蹴鞠に興じていたところ、女三の宮のもとで飼われていた2匹の猫が追いかけあいを始め、猫をつないでいた紐が絡まって、外と室内を隔てていた御簾(みす)が引き上げられてしまい、室内の様子が外に顕わになってしまいました。当時の貴族の女性にとっては、不用意に男性に顔を見られるということは、あってはならないタブー。にもかかわらず、蹴鞠の様子を室内から眺めていた女三の宮は、柏木に姿を見られてしまったのです。柏木は、女三の宮の美しい姿を目の当たりにしたことで、さらに恋心を募らせ、ついには密通に及びます。その後、女三の宮は柏木の子を出産。栄華を極めたかに見えた光源氏は、血のつながらない赤子を我が子としてその手に抱くことになるのです。光源氏の物語も終盤にさしかかったところで起こる大事件。そのきっかけとなったのが、他ならぬ猫なのです。
『源氏物語』を絵に描いた作品は「源氏絵」と呼ばれ、平安時代から現代に至るまで、さまざまな作品が生み出されてきていますが、この場面も数々の源氏絵に描かれてきました。物語の本文では、「いと小さくをかしげなるを、すこし大きなる猫追ひつづきて(小さくてかわいらしい猫を、少し大きな猫が追いかけてきて)」とあり、絵でも、猫を2匹描くタイプと、走り出てきた1匹だけを描くタイプがあります。土佐光吉筆「源氏物語色紙帖」(桃山時代17世紀 京都国立博物館蔵)では、室内に立つ女三の宮の足もとから、縞柄の猫が1匹飛び出していく様子が描かれています。なお、この土佐光吉の色紙には、思うように女三の宮に会えない柏木が、せめてもと、この猫を手に入れて愛玩する様子を描いた「若菜下」もあります。
『源氏物語』を著した紫式部も、身近なところでじゃれつく猫を目にしていたのかもしれません。物語の誕生に一役買ったのは、いったいどんなお顔の猫ちゃんだったのでしょうか。
(絵:曽我市太郎)
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