その愛らしいルックスと仕草で、私たちを魅了してやまない猫たち。愛猫家であれば誰でも、猫なしの生活など考えられないほど、大切な存在でしょう。
しかし現代では我が物顔で家庭に君臨している猫殿も、もとは野生の動物だったはず。いったい猫はどこからやってきて、いつから私たちの傍らにちょこんと座るようになったのか?今回は、そんな猫の歴史を紐解いてみましょう。
イエネコは、野生のヤマネコが家畜化したもの
現在、おうちで飼われているイエネコは、野生のヤマネコが家畜化したものです。世界のイエネコ計979匹をサンプルとしたミトコンドリアDNAの解析結果により、イエネコの祖先は約13万1,000年前に中東の砂漠などに生息していたリビアヤマネコであることが判明しています。
イエネコが人間と暮らすようになったのは約5,000年前の古代エジプトのころから、というのが長い間定説とされてきました。当時のエジプトでは、ナイル川流域の肥沃な農地から収穫した穀物を倉庫に蓄えており、それをネズミから守るために猫を飼っていた、という説です。3,600年ほど前の絵画に、人間と暮らす様子が描かれていることなどがその根拠として挙げられています。
しかし21世紀に入り、地中海のキプロス島のシロウロカンボス遺跡で、約9,500年前の墓から猫の骨が発掘されたことで、飼い猫のエジプト起源説が覆ります。この骨をDNA解析したところ、リビアヤマネコと同じ系統に属していることが判明しました。初めて人に飼われた猫から現在のイエネコに直接血統が連続しているかは不明確ながら、今のところこれが最古の飼育例となっています。
優秀なハンター、猫が穀物倉庫で大活躍
猫と並ぶペットの代表格である犬は、最初の馴化(家畜化)動物であるとされ、人間との関わりは2万年以上にもおよぶといいます。それに比べ猫は、人間との共生関係は短いものです。それはなぜでしょうか?
犬は、狩猟採集民にとって猟犬や番犬、使役犬として優秀な能力を発揮しました。知能が高く、もともと群れを形成する社会的な動物でもあり、飼育にも適していました。また、雑食傾向のある犬は人間が与えるエサで飼いやすく、そのことも早くから家畜化できた要因かもしれません。
一方、猫は完全な肉食動物であり、狩猟者にとっては当初、同じ獲物を狙う競合関係にありました。しかし、やがて人間が農耕を行うことになると、その関係に変化が起こります。穀物倉庫などに現れるネズミや野ウサギを狩るため、猫は人間の生活圏に頻繁に足を踏み入れるようになり、やがて倉庫に住み着くようになりました。肉食である猫は穀物に手を出す心配がなく、穀物を食い荒らすネズミなどの害獣・害虫を駆除してくれる番人としての役割を期待されるようになります。
現代の猫種であるメインクーンやアメリカンショートヘアなども、もとは農場で活躍するハンターであり、その高い狩猟能力で、ネズミたちを震え上がらせていた存在でした。
伝染病を媒介するネズミを駆除することは、結果的に疫病の予防にもつながりました。さらに、書物の紙などの食害されやすい素材が現れると、これを守ることでも活躍するようになります。
日本へは、仏教の経典とともに渡来した?
やがて猫たちは中国を経由し、中央アジアのシルクロードを通じてアジア圏内にまで広がりました。明確な証拠はないものの、日本へは6世紀半ばの仏教伝来とともに、中国から船に乗ってきたと考えられています。
当時の長い航海に必要な穀物や、大事な仏教の経典を、ネズミから守るために猫は必需品でした。おそらく飛鳥時代(592~710年)から奈良時代(710~794年)の頃には、すでに猫は日本にいたと推測されます。
ちなみに日本の書物に「ねこ」の文字が初めて現れるのは、景戒の『日本国現報善悪霊異記(日本霊異記)』(成立年不詳、787~822年頃)とされているようです。この書物の中で、慶雲2年(705年)の豊前国(福岡県東部)の膳臣廣國の言葉として記された一節に「狸」との表記があり、景戒はこの語に「禰古(ねこ)」という注釈をつけています。
「猫」の語源には諸説あります。いつも寝ていることから「寝る子」→「ねこ」となったという説。ネズミを捕まえてくれる益獣であることから、「ね(ネズミ)」に神、もしくは熊を意味する「こま」が付き「ねこま」となり、やがて語尾の”ま”が欠落し「ねこ」となった説。平安時代、猫の鳴き声を「ねうねう」と表現しており、親しみを込めた接尾語”こ”をつけ「ねうこ」と呼んだのが、次第に訛って「ねこ」となったという説。あるいは、関西の言葉で、「ぬくい子」→「ぬこ」→「ねこ」と変化した説などが知られています。
当初はネズミ退治のためにやってきた猫ですが、やがて人々に愛される存在となります。貴族に寵愛されていた古代エジプトや古代ローマなどと同様に、日本でも平安時代(794〜1185年/1192年頃)には高貴な身分の人たちからかわいがられていたとの記録も残っています。宇多天皇(867〜931年)の日記『寛平御記』には、父・光孝天皇より譲られた黒猫が記されており、日本最古の飼い猫の記録として有名です。
現代の猫と人間は、新たな共生関係へ
さて、現在の猫たちはご存知のとおり、ネズミ捕りという当初の任務をまったく忘れ去り、気ままに遊び暮らす毎日を送っています。もちろん私たち人間はそれを叱るどころか、「かわいい、かわいい!」と褒めそやし、思いっきり甘やかして飼育しています。これはこれで、主従の逆転した新たな共生関係といえるかもしれません。ネズミこそ捕らなくなったものの、飼い主さんの心をしっかりと捕獲して離さない、猫の優秀なハンターぶりは健在です。
*「猫の歴史」
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