「全身の健康は、まずは歯の健康から」というのは、なにも人間にだけ当てはまる言葉ではありません。じつはこれ、猫も同じなのです。
猫は口内のトラブルが多い動物です。人間と違い虫歯にはなりにくいものの、猫の80%は口内のトラブルを抱えていると言われています。とくに猫に多い口内の病気として、「歯周病」が挙げられます。
*歯周病について、詳しくは『歯が抜けてしまうことも!猫の歯周病とは』をご覧下さい。
口内トラブルは、さまざまな疾患の原因に
もともと野生の猫は完全に肉食の動物です。小動物など捕獲した獲物を、固い筋肉や腱、骨なども含めて噛み砕いて食べており、歯垢はたまりにくい生活環境でした。しかし、人間に飼われ家畜となったことで、柔らかいペットフードを常食するようになり、その結果さまざまな歯のトラブルを抱えるようになっています。
また、室内飼いが一般化し猫が長寿化したことで、適切なデンタルケアがなされないまま年齢を重ねてしまい、加齢とともに口内の病気が増加しているという側面もあります。
「歯周病」は一般に、歯茎が赤くなり炎症が起きてしまっている状態である「歯肉炎」から、歯肉炎の炎症の範囲が広くなった「歯周炎」となり、その後歯茎が縮んでしまい、歯の付け根と歯茎の間の歯周ポケットが膿んでしまった状態の「歯周病」へと重症化します。
治療が遅れると口腔内の細菌が血液を通じて全身に運ばれてしまい、腎臓、心臓、肝臓などの病気の原因となります。最近のアメリカの研究では、歯周病がひどい猫は心臓病になる確率が高いという報告もあるようです。
飼い主さんは、猫の口内トラブルがさまざまな病気などを引き起こすリスクとなることを、十分に認識する必要があります。
口内トラブルの予防は、日々のデンタルケアから
「歯周病」をはじめとする猫の口内トラブルを事前に予防するため、日頃のデンタルケアは必須です。歯磨きをしないと歯の表面に歯垢がたまり、この歯垢がやがて唾液中のカルシウムなどによって石灰化し、歯石となります。猫の歯磨きに関するさまざまなテクニックを見てみましょう。
家庭でのデンタルケアは、歯ブラシによる歯磨きが基本となります。歯ブラシを使用することで歯垢を除去し、口内の歯周病菌の増殖を防ぐことが出来ます。猫がまだ小さいうちならば、ぜひ歯磨きの習慣をつけたいものです。噛む力が弱い離乳期頃から歯磨きを慣れさせれば、成猫となってからも猫ちゃんに無理強いをさせずにデンタルケアを行えます。
成猫の歯磨きは、ゆっくりあせらず確実に
大人になった猫のデンタルケアは少々やっかいです。猫に限らず動物は基本的には、口の周りや口内を触られることをいやがります。歯磨きの前の基本的なトレーニングとして、飼い主が飼い猫の歯に触っても噛まない程度のコミュニケーションをとることが必要となります。
猫との触れあいの一環として、まずは口にタッチすることから始めましょう。体毛のブラッシングや頭を撫でるついでに、口周りに触れられることに慣れさせます。次に厚手の手袋などを着用し、ガーゼに猫の好む食べ物の匂いなどを染み込ませ口内を触り、”ガーゼが口の中に入ること=おいしいな”という意識付けを行います。前歯(切歯)から始め、徐々に奥歯(臼歯)へと進みます。
歯に触れられることに慣れてきたら、今度はガーゼで歯の表面をそっと拭ってみます。その際は、ガーゼに猫用の歯磨きペーストやキャットフードを含ませてもいいでしょう。こうしたステップを経て、いよいよ本格的な歯磨きを行います。
まず、猫の頭部を上から手でぐっとつかみ、上唇を親指でめくり上げるようにして歯を露出させます。猫用の歯ブラシや指先に巻き付けたガーゼを用い、歯磨きをします。歯ブラシの場合には、歯に対して角度を45度にして横方向に小刻みに、歯と歯茎の間に溜まった歯垢をかきだすイメージでブラッシングします。力はあまりかける必要はありません。歯石はとくに奥歯につきやすいので、念入りに磨きましょう。
歯磨きは週1〜2回からはじめ、可能であれば、毎日行うようになることが理想です。
人間用の歯ブラシ・歯磨き粉は厳禁です
歯磨きの際に気をつけたいのは、歯磨きペーストは必ず猫用のものを使い、人間用のものは使用しないことです。人間用のミント入り歯磨きはマタタビと同様の効果をもたらし、猫を興奮させてしまう危険があります。キシリトール入りのものはインスリンの過剰分泌を引き起こし、低血糖や肝障害の原因となります。また人間用の歯ブラシは硬すぎて歯茎を傷めますので、必ず猫用の歯ブラシを使うようにしましょう。
歯の表面に付いた歯垢が歯石となってしまっている場合には、「スケーラー」という道具を使用し、除去します。ただし、「スケーラー」で取り除ける歯石は歯の表面にある大きめのものだけで、歯根付近に定着した頑固な歯石を除去することは困難です。このような頑固な歯石を除去するには、専門医での処置が必要となります。
昨今、リスクが低いということで無麻酔歯石除去を行う施設が増えてきましたが、猫に無麻酔で歯石除去を行うことは口腔内を傷つけたり暴れたりする場合があるためお勧めできません。猫は大人しい性格でも音などに急に反応することがあるため、全身状態に問題がない場合は麻酔をかけて歯石除去をする方が良いでしょう。
日頃から愛猫の口臭や歯の状態に気を配りましょう
「歯周病」をはじめとする口内トラブルは、口臭や痛み、食欲不振などで猫を苦しめるだけでなく、全身の臓器にも影響をおよぼしかねない危険なものです。日頃から愛猫の口臭や歯の状態に気を配り、必要に応じて専門医による適切な処置を受けることを心がけましょう。
また、「歯周病」のリスクは高齢になるにつれて高まりますので、家庭でのデンタルケアを行っていても、4~5歳過ぎたら年に1回は動物病院での歯のチェックをすることをお勧めします。
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