人間にとっては美味しく栄養豊かな食べ物であっても、猫にとっては毒物となってしまう食べ物があります。その筆頭としてあげられるのがネギです。ネギは深刻な中毒症状を引き起こし、重度になると命にも関わることが。今回は、ネギ類が猫に中毒を起こす仕組みと具体的な症状、食べてしまったときの対処法について詳しく説明します。

どうして猫にとって、ネギ類は毒物になってしまうの?

 

ネギには、ネギ独特の風味をつくりだす物質が数種類含まれています。その中の有機チオ硫酸化合物が、赤血球のヘモグロビンを酸化させてしまうのです。そして、その変性物質が赤血球内部に「ハインツ小体」という塊を形成します。ハインツ小体を持つ赤血球はすぐに壊れてしまう性質があるため、赤血球不足になって貧血(溶血性貧血)や血尿といった症状を引き起こすのです。
これら有機チオ硫酸化合物は、加熱したからといっても毒性が消失するわけではなく、煮込んだスープにも溶け出すため、ネギそのものだけでなくネギを使った料理全般も同様に気をつけなければなりません。

ネギ類全般が中毒を引き起こす

中毒を起こすのは、いわゆるネギだけではありません。分類体系でいう「ネギ属(Allium)」の植物である、玉ネギ、ニラ、ニンニク、ワケギ、ノビル、ユリ根、ラッキョウ、アサツキ、エシャロットなどには、すべてに中毒物質が含まれており、猫が食べないよう注意が必要です。最近では鑑賞用として育てるネギ類もあるようですが、これも同様に猫が食べれば中毒を起こすため、室内には置かないほうが良いでしょう。

どのくらいの量で中毒になるの?

ネギ類による中毒は、猫だけでなく、犬や羊、牛、馬、ウサギなどにも見られます。しかし、猫の場合は他の動物よりもハインツ小体を作りやすいとされ、少量でも中毒を起こしやすいようです。ただし、量よりも遺伝的な要因でネギ類に対する感受性が決まるともいわれ、個体差が大きいと考えられています。これは玉ねぎの場合ですが、おおむね体重(kg)×5g以上を摂取すると症状が出るといわれます。

食べるとどんな症状が出るの?

ネギ類の中毒は24時間以内に発症することもしばしばありますが、多くは数日経ってから発症します。症状がないからといって安心は禁物です。重度になると死亡することもあるため、食べたことを目撃した場合はもちろん、次のような症状が出たら直ちに動物病院に連れて行きましょう。

初期によく見られる症状

□ ぐったりして元気がない
□ 食欲不振
□ 吐き気(よだれを垂らす)・嘔吐
□ 下痢

中度から重度に見られる症状

□ 発熱
□ ふらつく
□ 呼吸速迫
□ 心拍数の増加
□ 赤色から黒っぽい尿(血尿)
□ 黄疸
□ 意識障害・倒れる(場合によっては死亡)

ネギを使った料理の「うっかり食べ」に要注意!

 

「猫がネギなんか食べるわけがない」と考える飼い主さんは多いでしょう。確かにネギ単体では、匂いもきついため猫が食べることはほとんどないかもしれません。しかし料理の中に含まれていると、うっかり食べてしまう危険が。特に、猫の好きな肉や魚と一緒に調理されたものは危険です。

気をつけるべき代表的な料理

□ 焼き鳥などの「ネギま」

□ ハンバーグ

□ すき焼きなど鍋料理

□ シチュー・カレー

□ スープ・味噌汁

猫が食べてしまったときの対処法

 

2、3時間経ってしまうと吐かせることができなくなってしまうため、中毒の処置は時間勝負ともいえます。愛猫がもしネギ類を口にしてしまったら、症状が出ていなくても、また口にした量が少量であっても、直ちに動物病院を受診しましょう。夜間や休日でも、救急病院へ連れて行くぐらいの心構えが必要です。

診断に必要な情報

受診の際は、次のような情報を獣医師に伝えると診断や治療に役立ちます。

□ 何を口にしたか
□ どのくらいの量を口にしたか
□ 口にしてからどのくらいの時間が経っているか
□ 症状が出始めたのはいつごろか

動物病院でどんな治療をするの?

ネギ類の中毒に対して、動物病院では次のような治療が行われます。まず問診後に血液検査を行い、症状がどの程度進んでいるかを判断します。
胃の中にまだ食べたものが残っている場合は、薬を使って吐かせます。それが難しいときは、麻酔をかけ胃洗浄を行うことに。同時に活性炭を投与したり、点滴で水分補給を行いながら、尿からの再吸収を防ぐために尿カテーテルを使って尿から排毒したりします。そのほか、赤血球の破壊を食い止めるために抗酸化剤を投与し輸血を行うこともありますが、このような処置が必要となる場合は、かなり重篤な状態です。

 

ネギ類は、「絶対に食べさせてはいけない」と頭では理解していても、調理してあるとついうっかり、ということも起こり得る食品です。そもそも、猫をキッチンや食卓に近づかせない、人間の食べ物は与えない、というルールを家族間で徹底するようにしましょう。

 

※参考文献:「イヌ・ネコ家庭動物医学大百科」

 

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Tokyo Cat Specialists 院長

山本 宗伸

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