猫はストレスを感じやすいと言われていますが、一方でストレスを隠そうとする動物のため、飼い主さんは日々きちんと観察してあげる必要があります。ストレスが原因で体調を崩す事もあるので、大切な猫ちゃんに長く健康で暮らしてもらうためには、ストレスを与えないことが非常に大切です。ここでは、猫が出しているストレスサインの見分け方から考えられる原因、そしてストレスと関係する病気について解説します。

猫のストレスサインの見分け方

異常に攻撃的だったり、脱毛するほど自分の手足を舐めてしまっているような場合は、猫がなにかしらの強いストレスを感じていることに気づく飼い主さんは多いでしょう。しかしストレスサインの中には見分けにくいものもあります。例えば、嘔吐や食欲不振などもストレスサインの一つ。しかし、これは単純に猫の体調が悪い時のサインでもあるので、見分けることは簡単ではありません。

入院中の猫のストレスチェックシート

猫が入院中に、どれほどのストレスを感じているかを評価する「CatStressScore」というものがあります(下記の表参照)。家にいる時と入院中とでは、少し違うかもしれませんが、細かいパーツごとのサインを学ぶのに役立ちます。耳やひげなども、猫のストレスサインに気づく上で重要なパーツなので、よく観察してみてください。基本的にはリラックスしているときに各パーツを伸ばし、緊張すると縮こめます。

 

(CatStressScore.Kassler&Tuner1997を一部改変)

猫がストレスを感じる原因

猫がストレスを感じる原因はある程度決まっています。

よくみられるストレス要因

猫同士の不仲

多頭飼いをした時に猫同士の相性が悪いと、非常に大きなストレスとなります。特に老猫が子猫と一緒に暮らすようになった時に起こりやすいので、多頭飼いをするときは注意が必要です。どうしても仲良くならない組み合わせの場合は、一時的に猫同士を離すことが必要になることもあります。

引越し

現代の猫は、昔と比べると警戒心が弱くなりましたが、それでも新しい環境へ行くのは大きなストレスになります。自宅ではのんびりしている猫が、車に乗せたら目を丸くして鳴き続けることも珍しくないでしょう。環境の変化を嫌う猫にとって、引越しは大きなストレスになります。引越しをするときは、できるだけ家具や猫グッズを変えず、少しでも早く新しい環境に慣れる手助けをしてあげましょう。

過剰な多頭飼育

猫は単独で狩りをする動物だったため、プライベートを人間以上に大切にします。多頭飼育をした時、一見仲良しそうに見えても、一人(匹)になれるスペースがないとストレスを感じてしまいます。猫の飼育頭数は「部屋の数−1」を基準にしましょう。

 

◆猫の多頭飼育に関する「にゃんペディア」の記事は、こちらをご覧ください。

その他のストレス要因

長期の留守番

飼い主さんのことが大好きな猫、特に家でずっとくっついてくるような甘えん坊な子は、飼い主さんがいないことで不安になることがあります。帰宅後、トイレをわざと失敗していたり、家が荒れている場合はこれが原因かもしれません。特にオスに多いと報告されています。

トイレが汚い

猫はトイレに対してとても敏感です。トイレに行ってから用をたすまで、入念に砂を平らにして、ポジションを調整します。トイレ中の猫の真剣な表情を見れば、猫がどれほどトイレを大切にしているかわかるはず。猫は尿や便が残っているトイレを避けるということは、ご存知な方も多いのではないでしょうか。トイレは常に清潔に保つ必要があるので、複数設置するといいでしょう。

来客

見知らぬ人が来ると物陰に隠れるような子は、来客にもストレスを感じます。私は往診もしていますが、訪問した時に玄関で出迎えてくれる猫は稀で、過半数の猫は飼い主さんに捕まえてもらいます。来訪者をストレスに感じる子も少なくありません。ちなみに年末年始になると、「親戚が家に集まったことが原因で、ストレスから食欲がなくなったかもしれない。」という相談が多くなります。

騒音

周辺の工事、近隣住民の生活音などは、私たち人間でもストレスを感じますが、聴覚が発達している猫はより強くストレスを感じていると考えられます。他にも落雷や、近隣の交通事故など突発的な音にも敏感に反応します。その音が鳴った瞬間にトイレにいた場合、トイレを怖がるようになることもあり、そうするとトイレやトイレの場所を変更しなければならなくなる場合もあります。

 

過度なストレスが溜まってしまうと…

 

過度なストレスは問題行動や病気などを引き起こすだけでなく、猫に健康で長生きしてもらうためには、ストレスを感じさせない環境づくりが大切です。

ストレスが行動に現れるケース

心因性脱毛

猫は、不安を感じた時に、気持ちを落ち着かせるため自身の毛を舐めることがあります。これは「転移行動」といって、直前に取っている行動と全く関係ない行動をすることで、不安や恐怖から逃げるために行うと考えられています。不安な気持ちが続くと、過度なグルーミングを続けるようになり、脱毛をしても舐め続けてしまうようになります。この心因性脱毛は、猫が舐めやすい前肢の外側や、体の側面、お腹の脱毛が抜けていくことが特徴です。ただ、猫が脱毛する原因は様々で、病気である可能性もあるので、もし脱毛しているのを見つけたら、まずはかかりつけの動物病院に相談してください。

トイレの失敗

猫は不安を感じると自分の匂いで周囲を満そうとします。そのため、強いストレスがかかるとベッドや柱など目立つところに尿をするようになります。これは避妊去勢を行なっていてもみられる行動です。

自傷行為

過度なストレスがかかると、自分の尻尾を出血するまで強く噛むようなこともあります。繰り返し噛むと傷が治癒しなくなり、手術が必要になることもあります。ストレスの原因になっているものを取り除くことが治療になります。

ストレスから体調を崩してしまうケースも

特発性膀胱炎

特発性膀胱炎は、細菌感染や膀胱結石がないにもかかわらず、何度もトイレへ行ったり、血尿が出たりする病気です。発症にはストレスが関与していると考えられており、緊張しやすいシャイな猫ほどリスクが高く、比較的若い猫でも発症することがあると言われています。

*猫ちゃんの膀胱炎については、「猫の膀胱炎 症状・原因・治療法・予防法について【獣医師が解説!】」でも詳しくご紹介しています。

猫伝染性腹膜炎(FIP)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、特に若い猫で発症すると言われており、一度発症すると短期間のうちに命を落としてしまう恐ろしい病気です。この病気は、健康な猫のほとんどが持っている弱毒性のウイルス「猫コロナウイルス」が、ある日FIPウイルスに突然変異をすることで発症すると考えられています。今のところ明確な治療法や予防法が見つかっていませんが、ウイルスが突然変異をする要因として、ストレス負荷や過剰な多頭飼育が関与していると言われています。

*FIPについては、「子猫の命を奪う恐ろしい病気、FIP(猫伝染性腹膜炎)とは?」でも詳しくご紹介しています。

 

長年猫と一緒に暮らしていると、愛猫の表情をある程度読むことができるようになります。とはいえ、私たち人間とは種が違う猫のストレスを、正確に把握することは難しいです。猫は単独で生活していたため、警戒心がまだまだ強いこと、それがストレスを感じやすい体質に繋がっていると考えられます。またストレスを感じると自分の匂いを撒き散らすというのは、私たちにはあまりない感覚です。猫の感性を理解し、ストレスが少ない生活を心がけることが、長生きの秘訣です。

 

 

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Tokyo Cat Specialists 院長

山本 宗伸

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