愛する飼い猫が迷子になっちゃったら、飼い主は平常心ではいられません。

どうやって探したらいいの? 探し方のコツは?

イザというときに役立つアドバイスを、日本動物探偵社の鈴木美佐男さんからいただきました。

日本動物探偵社・鈴木美佐男さんはこんな方       

鈴木美佐男氏

1985年から30年以上、迷いペットの捜索に携わる。行政からの依頼にも対応し、雑誌や新聞、テレビの取材も数多く受けている。犬、ウサギ、フェレット、鳥、亀などあらゆるペットの捜索をするが、特に猫の捜索を得意とする。マンガ『探偵ブル』の主人公・犬井のモデルでもある。

‘日本動物探偵社の公式サイトはこちら’

――そもそも、鈴木さんがペット探偵になったいきさつを教えてください。

昔、自分が飼っていたクロというメス猫が家から逃げてしまって、探していたんです。そのとき、別の迷い猫のポスターを見かけました。

クロを探し歩いているときに、偶然ポスターの迷い猫を発見。飼い主さんに届けると、ものすごく感謝されました。その後、クロも無事発見。街を見渡すと、迷い犬や迷い猫の張り紙がこんなにあると気づき、これは動物好きの自分の天職なのではないかと思いました。

無類の動物好きである鈴木さん。現在も犬や猫を飼っています。写真は柴犬のポニーちゃん。

愛犬のポニーちゃん。

――依頼される動物は、何が多いんですか?

猫が7割、犬が2割、その他が1割といったところです。

成功率としては、猫は8割以上の確率で見つけています。

――捜索の依頼が多い時期や、よくあるパターンを教えてください。

年末年始やゴールデンウィークなどの大型連休は、知人の方にペットを預けて旅行に行く人が多いですが、その預け先からペットが逃げてしまうことが多く、捜索の依頼が多くなります。

あとは、引っ越し先から逃げてしまうパターンも多いですね。どちらの場合も、見知らぬ場所に連れて行かれてパニックになるんでしょう。

最近では、犬猫の保護団体からペットをもらった人の家から逃げ出すパターンも多いです。この場合、保護団体から依頼が来ることも多いんです。ペットをもらったばかりの当人はまだそのペットに愛着がないのか……現代ならではのパターンですね。

――室内飼いの猫や外出自由の猫など、猫によって捜索の難易度に違いはありますか。

室内飼いの猫は外の世界を知りませんから、家から脱走したとしても近くにいる可能性がほとんど。たいてい怖がってすぐ近くでじっとしているんです。

また、室内飼いでも一軒家だと窓から外の世界が少し見られますから、土地勘のようなものが少しはあってまだマシなんですが、マンションの高い階に住んでいる猫だと、ほとんど外のことがわからず、ますます怯えることになります。

マンション猫は外の世界がほとんどわからず、脱走したときは最も怖がることに……!

外出自由の猫が帰ってこないのは、たいていの場合、ほかの強い猫に脅されてなわばりの外に行ってしまうから。ですからこの場合は室内飼いの猫より捜索範囲が広くなります。

最も難しいのは、家から離れた旅先などで見失ってしまうパターン。猫にとってはまったく見知らぬ土地ですし、飼い主さんも土地勘がなく、毎日探すのも難しい。こうなると我々のようなペット探偵に任せたほうがよい場合が多いです。

――飼い猫が迷子になった場合、捜索チラシを作ると思いますが、作るときのポイントなどはありますか?

サイズはB5か、大きくてもA4がおすすめです。B5だったらB4で、A4だったらA3で2枚ずつプリントして半分に切れば、経費が節約できます。

猫の写真は、顔、全身、それからしっぽがわかるものを大きく入れてください。この3点がわかる写真だったら1点でかまいません。
意外と重要なのはしっぽです。似たような柄の猫はたくさんいますから、しっぽが長いか短いか、曲がっているかなどで見分けられることが多いんです。首輪の色や不妊手術の有無の情報もあるとベターです。

行方不明になった日付は書かない方がよいです。日付がだいぶ以前のものだと、「もう見つかっただろう」と関心を持ってくれないことが多いんです。

あと、うちでは必ず下記の2文を入れています。

① 「見つけても捕まえようとせず連絡をください」
② 「見つかり次第ポスターをはがします」

① は、知らない人に追いかけられると逃げてしまうから。逃げてまた別の場所に行ってしまうと、探すのが困難になります。それより、飼い主さんや我々ペット探偵に任せていただいたほうが捕まえられます。
② このように明記することで、印象をよくしてはがされるのを防ぎます。

実際に日本動物探偵社さんが作った捜索チラシがこちら!

探していますポスターの書き方

それから、見つけてくれた方に対しての「お礼」や「謝礼」はあったほうがよいですが、「賞金」という書き方は絶対に避けてください。心無い人から「これだけ探したんだから金をよこせ」などと脅された例もあります。電話番号など個人情報をある程度さらしてしまうので、そこは注意をしてください。

――なんと! そんな恐ろしいこともあるんですね……。

調べてみると、偽名の苗字でチラシを作った方もいるそう。個人情報保護のためだけでなく、かかってきた電話が迷い猫関係のものか、そうでないかがわかることもメリットのようです。

――ポスティングと街頭に貼るのでは、どちらのほうが効果が高いんでしょうか?

猫がいなくなった近辺の家にはポスティングもしたほうがいいですが、私はポスティングより街頭に貼るほうが効果が高いと思います。
ポスティングされたチラシって、普通2~3日で捨ててしまいますよね? それに、家の中で見た写真を外に出てからも覚えている方は稀です。それよりは、街中で見られるほうが効果は高いと思います。当社では、ポスティング用チラシの2倍の枚数を街頭に貼ります。

――街頭のどんな場所に貼るとよいのでしょうか?

ゴミ出し場所の電柱や、曲がり角などは人の目に止まりやすいので張るとよいでしょう。

逆に、貼ってはいけない場所もあります。街灯や信号機、ガードレール等はNGです。他人の敷地内の電柱も、その方の許可がない限りNGです。

――貼り方のコツはありますか?

長年やってきた結果、この貼り方がベストと気づきました。

貼り方

チラシはきれいに作ってきれいに貼ることが大切です。貼るときは両面テープでしっかりと。そのとき、左右の縦辺だけにテープを貼ってください。
その理由は、電柱などを伝ってくる雨を通すためです。この貼り方なら、雨が降ってもすぐ乾き、復活することができます。
横から吹いてくる風でチラシが破けることも多いのですが、左右をしっかり貼っておけば、かなり防ぐことができます。

雨を防ぐためにビニール袋で覆って貼る方もいますが、あれはダメです。ビニール内で結露が発生して濡れるし、モヤがかかってチラシが見えなくなるんです。
ラミネート加工する手もありますが、手間とコストがかかりすぎて実用的ではありません。それより、たくさん貼るほうが重要です。

また、チラシを貼った場所は地図にチェックしておくこと。見つかったらはがさなくてはなりませんから。貼ったままだと、ずっと個人情報をさらしていることにもなります。

公的施設への連絡等は、‘こちら’の記事も参考にしてくださいね。

――チラシも作って、いよいよ実際に探す段のポイントを教えてください。

とにかく、いなくなった場所の周辺を歩いて探すことです。犬の場合は遠くまで移動している可能性があるので自転車を使うことがありますが、猫の場合は半径200~300m、広くても半径1㎞以内にいることがほとんどです。だから歩いて探すのが基本。
猫は高いところにも上れるし、狭い場所にも入り込めます。ですから裏道や家と家の隙間など、近くで隠れられそうな場所を徹底的に探してください。

知らない場所に出てしまって怯えている猫は、一カ所にじっと隠れていることが多いもの。そして飼い主が来ても怖がって出てこないことも多い。
知らない場所に出てしまって怯えている猫は、一カ所にじっと隠れていることが多いもの。そして飼い主が来ても怖がって出てこないことも多い。

家から脱走してしまったなら、まず隣近所に挨拶に行き、チラシを渡して事情を説明してください。何も伝えずに探すと怪しまれる原因になります。そのおうちの方にお庭や家の裏などを見てもらったり、その方の許可が取れるなら入らせてもらって探しましょう。物置など、一見「こんなところにいるわけない」と思う場所でも、猫は入ります。

また、詳細な地図を用意して、書き込みながら探すとよいです。まずは猫がいなくなった地点の半径300mくらいの地図があればよいでしょう。

捜索チラシを持ち歩いて街頭に張りながら探します。貼った場所はあとではがせるよう、地図に書き込みましょう。

何にでも例外はあるので一概には言えませんが、屋外で犬を飼っているおうちには、猫はいないことが多いです。逆に、猫を飼っているおうちは住人が猫好きですから、知らない猫(迷い猫)にエサをやっている可能性も。

地域猫活動をしている方や、野良猫に毎日エサをあげに来ている方は、新参者の猫(迷い猫)を見かけている可能性があります。チラシを渡しながら聞いてみましょう。

――捜索チラシと地図のほかに、持ち歩いたほうがいいものはありますか? キャリーバッグとか……?

キャリーバッグを持ち出すのは、猫の居場所を見つけてからです。まずはどこにいるかを見つけるのが先です。最初から持ち歩くと荷物になって効率が悪いです。ほとんどの迷い猫は居場所を決めたらそこから動きませんから、居場所をつきとめてからキャリーバッグを取りに戻ってもいなくなることはほとんどありません。
少量の猫用おやつやマタタビ、懐中電灯は一応持っておいたほうがよいでしょう。

――猫は夜行性なので、夜間に探した方がよいのでしょうか?

確かに、我々も夜間に探すことはありますが、ほとんどの場合、朝と夕方に探して見つかっています。
猫は正確には「夜行性」ではなく「薄明薄暮性」です。つまり、明け方と夕方の薄暗い時間に最も活発になる動物です。朝早く猫に起こされる経験のある飼い主さんは多いかと思います。
エサやりさんからエサをもらっている場合も、日中に公園などに来ていることになりますよね。

夜は、猫の目が懐中電灯の明かりを反射したりして見つけやすい部分もありますが、静かですから、こちらがちょっと動くとその物音に反応して逃げることも多いです。

迷子の猫

――猫の居場所がわかったあとの、捕まえ方を教えてください。

猫が警戒していないようなら抱きかかえて帰ることもできますが、たとえ相手が飼い主さんだとしても、猫が警戒しているときは威嚇してきたり、再び逃走する可能性があります。当然、見知らぬペット探偵に対しては警戒していますから、警戒心を和らげることが必要です。

やはり効果的なのは“餌付け”。それもいつものフードでなく、遠くからでもわかるにおいの強いウエットフードが効果的です。
以前行った方法では、魚を網で焼いて煙を出す方法が一番効果がありましたが、都会ではそれは難しいでしょうから、人用のサンマ缶などがおすすめです。

当社では、オリジナルの捕獲機を用意して、捕獲機の中にエサを仕込み、中に入るまで待つ方法が一番よいと思っています。捕獲機のレンタルも行っています。

――やはり自力で探すのは難しいと思ったら、なるべく早めにペット探偵さんに頼んだ方がよいのでしょうか?

旅行先などで飼い主さんが探すことが難しい場合は、スグのほうがよいでしょう。
自宅から脱走した場合は、場合によりますが、3日くらいは可能なら自力で探してもよいかもしれません。猫が自分で帰って来ることもあるので。実際、依頼を受けておうちへ伺ったら、私の後ろに猫がついてきて、一緒に玄関に入ったこともありました(笑)。

――よい業者の見分け方はありますか?

迷子ペットを探し出すための専用の機材を持っているところは信用できると思います。また、きちんと動物の習性の知識があるのも必須です。まったく動物の習性などを知らない人がペット探偵と名乗っている場合もあります。話してみて、そういった面を感じたらまず止めたほうがよいでしょう。
飼い主さんが一緒に探すのを嫌がる場合は確実に怪しいですね。探しているフリをしているだけなんでしょう。
「必ず見つけます」とかいうのも怪しいです。そんなこと確約できませんから。

――日本動物探偵社さんではどういう機材を使用しているのですか? 見たいです。

① 小型カメラ(マイクロスコープ)

①小型カメラ(マイクロスコープ)

自由に曲げることができるアームの先端にカメラレンズがあり、人が入れない縁側の下などを見ることができます。

② ヘッドライト

ヘッドライト

夜間の探索用に。最大5000ルーメンの明るさ。

③ 動くものがあると自動撮影する赤外線カメラ

カメラの前を動くものが通ると自動で録画するカメラ。24時間見張っているわけにもいかないので、こうしたカメラを設置しておくことで、不在の時間もチェックできます。該当の迷い猫が録画されていれば、「その時間帯はこの場所にいる」ことがわかります。

④ ハイパー双眼鏡

ハイパー双眼鏡

高倍率でズームできる双眼鏡。遠くにいる猫もバッチリ!

⑤ 83倍光学ズームカメラ

83倍光学ズームカメラ

遠くにいる猫もこれでパシャリ。撮影した画像を飼い主さんに確認してもらいます。

⑥ オリジナルペット捕獲機

改良に改良を重ねた、日本動物探偵社自慢のペット捕獲機。
通常の捕獲機(下の画像)とは、だいぶ異なります。

通常の捕獲機

まず、異なるのは材質。通常の捕獲機は金属製なのに対し、この捕獲機はなんと紙製!
紙を選んだ理由は、「におい」。金属などほかの材質だと、においに警戒して入らないことが多いそうです。確かに、猫は紙が好きですよね。

設置するときは、このように片側だけの扉を開けておきます。

捕獲器の仕組み

そしてまずは扉のそばにエサを置き、猫に食べさせます。日を追うごとに、エサの置き場所を少しずつ奥へ移動させます。

自動的に扉が閉まる仕掛け

猫が安心して奥まで進み、奥にある板を踏むと、自動的に扉が閉まる仕掛け(板につながった鉛の玉が落ち、扉が閉まり、自動的に鍵がかかる……という複雑な仕組みです)。暗くて狭い場所なので、猫は落ち着いて待っていることができます。

――さすがプロ! 本格的な機材が揃っていますね。「餅は餅屋」で、愛猫が迷子になってしまったら、ペット探偵さんにお願いするのが安心かもしれません。

今までに受けた多くの依頼のなかには、交通事故などで亡くなった猫を近所の方が埋葬したことがわかった例もあるそうです。でもそのほうが、いつまでも行方不明の猫を気に病むより、気持ちの区切りがつくのではないかと思いました。(富田)

 

 

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日本動物科学研究所

富田 園子

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