引越しや通院などの環境の変化は、猫に強いストレスをもたらします。猫によっては新しい家に適応するのに数週間かかることもありますし、病院ではすべての検査を拒否する猫もいます。人間と一緒に暮らす動物の中でも、犬は外出を好みますよね。一体、なぜ猫は環境の変化を嫌うのでしょうか?
行動範囲が非常に狭い
猫の行動範囲は、草食動物や犬に比べると非常に限られています。メス猫の場合、生まれた場所から650ヤード(約600m)以上離れることは少ないと言われていて、これは獲物を追いかけて数十km移動する狼や、数百km移動する草食動物と比べると、極端に狭いことがわかります。また、オス猫は自分のテリトリーを獲得するためにライバルがいない土地へ旅をしますが、一度テリトリーを確保すれば、半径200メートル以内のテリトリーの中で暮らします。
食料が豊富な都心部で暮らす猫は、遠くまで食料を求めて移動する必要がないので、これよりもっとテリトリーが狭くなります。このように、猫はもともと行動範囲が狭く、新しい環境へとびこむことが少ない動物だということがわかっています。発情期のオスなどはリスクを冒して旅に出ますが、それ以外の理由では自由に行動可能な状態でも数百メートルしか移動しません。
猫は匂いで語り合う
私たち人間からすると想像し難いですが、猫は匂いによって猫同士で気持ちを伝え合っています。その時の精神状態、主張、発情の有無などを匂いから判断することができるのです。さらに私たち人間は、お互いのことを覚える時に顔と名前で相手を認識しますが、猫は匂いで個体を識別していると言われています。他の猫とコミュニケーションを取る上で、匂いが非常に重要な役割を果たしているのです。そのため、知らない匂いが複数存在する新しい環境は、猫に大きな不安を与えます。新しい環境へ行くと尿をスプレーしたり、フェロモンを擦り付けたりするのは、新しい環境を自分の匂いで満たし、精神的に落ち着こうとしているのです。
だから猫は表情も乏しい・・・?
猫の顔が表情に乏しいと言われるのは、視覚に頼らないコミュケーション手段を行なっているからだとも考えられます。霊長類は特に視力が良いため、人に限らず表情が複雑です。視覚に頼らないため、猫は表情を豊かにする眉毛に当たる部分がないという説もあります。
前頭脳が小さい
アメリカの動物学者テンプル・グランディンは、猫には人間の強迫性障害に似た行動がよく見られると指摘しています。強迫性障害というのは、強すぎる不安によって日常生活が困難になる精神的な病気のことで、鍵を閉めたはずのドアを何度も何度も確認したり、手を過剰に洗ったりするようなことがそれに当てはまります。テンプルは猫がその強迫性障害に似た行動をよくとるというのです。
たとえば、過剰な毛づくろいによって毛が抜けてしまう、心因性脱毛もその一つ。その原因として、テンプルは猫の脳のうち、前頭葉という部分が、他の部位と比べても極めて小さいことを挙げています。脳全体のうち前頭葉が占める割合は、人で29%、犬では7%に対して、猫では3.5%しかありません。前頭葉は計画を立てたり、順調に作業を進めたり、計画をスムーズに変更する能力に関係していると考えられています。特に最後の「計画をスムーズに変更する」能力の低さが、新しい環境に適応できないか、もしくは時間がかかる原因になっているのかもしれません。
もし引越しをしなければいけない場合はトイレや猫用ベッドなどは新調せず、以前と同じものを使い匂いだけでも変化を小さくしてあげましょう。また病院に行くときはキャリーを猫が愛用しているタオルで包むという方法が効果的です。私たちとは異なる猫の感覚を理解し、できる限りストレスをかけないようサポートしてあげましょう。
参考資料・Feline Behavior 2ndEdition Bonnie V. Beaver SANDERS ・動物が幸せを感じるとき新しい動物行動学でわかるアニマル・マインドテンプル・グランディンNHK出版
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