がん細胞ってどんな細胞?

癌(がん)とは異常な細胞(がん細胞)の集まりです。正常な細胞は、若いときに体を発育させるために成長したり、死んでしまった細胞に置き換わるために成長をするものなのですが、がん細胞はそういったルールを無視して、体が必要としていないにも関わらず、どんどん成長して増え続けます。そして近くにある健康な細胞を侵して、傷つけたり破壊したりしながら、大きくなっていきます。

 

がん細胞が生まれるまで

新しい細胞は、今ある細胞が分裂することで数を増やしています。こうして猫の体内では、毎日正常な細胞が何百万個と生まれています。

hifu1       hifu2  hifu3 

 

細胞は分裂するときに、一緒に遺伝子もコピーされます。しかし、稀に遺伝子のコピーに失敗してしまうことがあります。遺伝子にエラーがおきた細胞はほとんど死んでしまうのですが、「無制限に増殖せよ」というエラーが起きてしまうことがあります。これががん細胞です。がん細胞が生まれる原因としては、紫外線や発がん性がある化学物質の摂取などが関連していることもありますが、特別な理由がなくても生まれることもあります。

 

cancer1

 

cancer2

 

がん細胞③

 

実はこのがん細胞、人間でも猫でも、体の中で毎日たくさん生まれています。一説には数百から数千個生まれていると言われています。そんな状態でも健康な生活が送れるのは、体に備わっている免疫機能のおかげです。免疫機能が毎日生まれたがん細胞を退治してくれているのです。しかし、その免疫機能の攻撃をかいくぐって成長してしまうがん細胞が出てくると、いわゆる『癌(がん)』として増殖してしまい、体に悪影響を及ぼしてしまうのです。

 

悪性腫瘍と良性腫瘍の違い

体のルールを無視して、異常に細胞が増殖していくことを「腫瘍」と言います。ただ腫瘍の中にも良性と悪性があり、悪性腫瘍のことをいわゆる「癌(がん)」と呼びます。

 

良性腫瘍の特徴

良性腫瘍も腫瘍なので、細胞が不用意に増殖する状態です。ただし、以下の特徴から体へのダメージが比較的少なく、早期に手術できれば完治も期待できることが多いのです。

 

ryousei

□ 比較的ゆっくり増殖する

□ 周りの組織に浸潤しにくく膨らむように大きくなる

□ 転移をすることが少ない

 

ちなみに、ポリープは良性腫瘍のひとつと考えられています。胃や腸、膀胱などのような、管状もしくは袋状の臓器の粘膜に良性腫瘍が隆起している状態のことをポリープと呼びます。人間ではポリープが悪性腫瘍に変化することが知られていますが、猫ではまだポリープと悪性腫瘍の関係は明らかにされていません。

 

悪性腫瘍の特徴

良性腫瘍に対して、悪性腫瘍は体へのダメージが大きいのが特徴です。一般的に癌(がん)というと、この悪性腫瘍のことを指します。発生部位によって「●●癌」と呼ばれることもあれば、「●●肉腫」などと呼ばれることもあります。

 

akusei

□ 増殖スピードが早い

□ 周りの組織に浸潤するように(しみこむように)広がってゆく

□ 離れている臓器に転移をしてしまう。そしてその転移したがん細胞も大きくなる

 

上記のような特徴があるため、体に与えるダメージが大きく、治療が難しいことも特徴です。

本当に初期の段階で治療ができればよいのですが、できものができて少し様子を見ているうちにみるみる大きくなってしまったり、手術をしてもすぐに再発してしまったり、手術をしようにも既に転移を起こしていたりと、進行してしまった場合には完治することが非常に難しいと言えるでしょう。

犬は体に腫瘍ができた場合、「良性」と「悪性」が半々だと言われています。しかし猫の場合、データの取り方にもよりますが、体にできた腫瘍のうち80%が悪性で、20%が良性と言われています。犬に比べて悪性腫瘍になりやすいことが特徴です。

 

癌ができやすい場所

体の中でも、癌(がん)ができやすい場所とあまりできない場所があります。猫の体では、以下の場所に癌(がん)ができやすいと言われています。

 

□ 鼻の中

□ 口の中

□ 肺や胸腺など、胸の中

□ 乳腺

□ 肝臓

□ 腸管

□ 腎臓

□ 膵臓(すいぞう)

□ 皮膚

□ 血液

□ リンパ腺

 

癌(がん)が見つかるまで

癌(がん)の症状

症状は、癌(がん)の発生場所した場所によって異なります。肺にできてしまった場合は呼吸が苦しくなりますし、腎臓にできた場合は腎不全(腎臓病)の症状が現れますし、腸にできた場合は嘔吐や下痢が起こります。
ただし、『痩せていく』という症状は、どの癌(がん)にも共通します。がん細胞は体の代謝を変化させ、どんどんエネルギーを消耗していくので、体重が減ってしまうのです。食欲があるからといって安心せず、体重の変化に気付いてあげることが大切です。自宅で定期的に猫の体重を測定してあげていれば、わずかな変化に気付くことができるでしょう。

癌(がん)の発見方法

定期的な血液検査をしていれば、癌(がん)を早期発見できると思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは誤解です。血液検査とは血液中に含まれる成分の数値に異常があるかどうかということだけ。白血球が増殖していく、白血病のような癌(がん)であれば発見することはできますが、それ以外は「体のどこかに異常がある」という程度のことしかわかりません。また、血液に異常が現れないくらい早期の癌(がん)であれば、全く気付くことはできないでしょう。
癌(がん)を発見するためには、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、CT/MRIなどを組み合わせて行う必要があります。

癌(がん)の治療法

現在多くのがん治療は、手術・抗がん剤・放射線治療を組み合わせて行われています。

手術

メリット

手術は外科的に癌(がん)を体から摘出するために行われます。病巣の周辺組織や転移を起こしているリンパ節なども同時に切除できるため、癌(がん)を一気に取れることがメリットです。侵襲度が低く、転移を起こしていない場合では完治も期待できる治療法です。

問題点

全身麻酔をかけた上でメスを入れるので、体に負担がかかります。また、切除した部位によっては臓器や体の機能が失われてしまいます。腫瘍ができた場所によっては、手術が不可能である場合もありますし、肉眼で確認することができないような小さな転移は治療できないことが問題点です。

化学療法(抗がん剤)

メリット

抗がん剤を投与することで、がん細胞を死滅させたり増殖を抑えることができます。抗がん剤のメリットは全身麻酔や外科手術ではないため麻酔のリスクや痛みが無いことです。また薬剤を投与するので、もともとある癌(がん)だけでなく、転移したものにも効果があることが特徴です。

問題点

最も問題となるのは、抗がん剤の副作用です。抗がん剤は全身に作用するので、がん細胞以外の正常な細胞にまで影響を及ぼします。そのため白血球が減少したり、食欲不振・嘔吐などの消化器系の副作用が出たりすることもあります。また、すべての癌(がん)に効果があるわけではなく、抗がん剤がほとんど効かない場合もあります。

抗がん剤治療については、飼い主さんの思いもあると思うので、「猫が癌になったら。抗がん剤治療は必要か?【獣医師解説】」も参考にしてみてください。

 

放射線療法

メリット

放射線療法は癌(がん)の病巣に対して放射線を照射して、がん細胞を減らす治療です。治療中は動いてはいけないので全身麻酔は必要ですが、メスを入れる必要がないため痛みは感じにくいことが特徴です。また、鼻の中や頭など手術がしにくい場所でも治療ができることがメリットです。がんの種類によっては化学療法よりも治療成績が良い場合もあります。

問題点

がん細胞に直接放射線を当てなければならないので、手術と同じで肉眼で見つけられないような小さな移転を治療することはできません。さらに、放射線治療は正常な細胞も傷つけてしまうため、中には副作用として放射線障害が起こることが知られています。
放射線治療ができる病院も、大学病院などのような一部の診療施設に限られていることから、通院の負担もかかるでしょう。また、最新の医療機器を使用するため、医療費も高額になってしまうことも問題の一つです。

 

 

癌の治療法は複雑です。かかりつけの病院以外で診察を希望することは、決して悪いことではありません。かかりつけの獣医さんに相談して、セカンドオピニオンの病院を紹介してもらってもいいと思います。飼い主さん自身が納得のいく方法で、愛猫ちゃんの癌(がん)と向き合えるようになるといいですね。

 

★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典「うちの子おうちの医療事典」をご利用ください。

 

 例えば、下記のような切り口で、さまざまな病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

 

【治療】

■ 再発しやすい ■ 長期の治療が必要 ■治療期間が短い ■ 緊急治療が必要 ■ 入院が必要になることが多い  ■手術での治療が多い ■専門の病院へ紹介されることがある ■生涯つきあっていく可能性あり 

【症状】

■ 初期は無症状が多い ■ 病気の進行が早い ■後遺症が残ることがある

【対象】

■ 子猫に多い ■ 高齢猫に多い ■男の子に多い   ■女の子に多い  

【季節性】

春・秋にかかりやすい ■夏にかかりやすい

【発生頻度】

■ かかりやすい病気 ■めずらしい病気

【うつるか】

■ 犬にうつる ■ 人にうつる ■ 多頭飼育で注意 

【命への影響度】

■ 命にかかわるリスクが高い

【費用】

■ 生涯かかる治療費が高額 ■手術費用が高額

【予防】

■ 予防できる ■ワクチンがある

 

東京猫医療センター 院長

服部 幸

詳細はこちら

関連記事

related article