「人獣共通感染症」という言葉をご存知ですか?

 

人と動物に共通する感染症のことで、ズーノーシス(Zoonosis)とも呼ばれます。また、その中でも人も動物も双方が発症するものや、動物には症状がなく人のみが発症するものを「動物由来感染症」ともいいます。

 

人獣共通感染症を引き起こす病原体は、世界中に200種類以上存在すると言われており、日本で発症があるものは約50種、そのうち約30種が犬や猫などの小動物から人に感染する可能性があるものです。風邪やインフルエンザに症状が似ているものから、命に関わる危険性のある恐ろしい病気までさまざまありますが、これらの病気の存在はあまり認識されていないのが現状です。

 

これらの病気を予防し、ペットと家族が健康で幸せに生活するためには、まずは病気について正しい知識を身につけておくことが重要です。ここでは、猫を飼う人には知っておいてもらいたい代表的な共通感染症について解説します。

 

パスツレラ症

「パスツレラ症」は、パスツレラ菌による感染症です。犬の約75%、猫のほぼ100%が口の中の常在菌としてパスツレラ菌を保有しています。犬や猫ではほとんど症状がみられませんが、人に感染すると発症します。

 

● 感染経路

犬や猫の口の中や気道に存在している細菌で、主に咬まれることによって感染します。

また、飛沫から感染する場合もあります。

 

● 症状

咬まれた部分が腫れ、痛みを伴います。これらは咬まれてから1時間以内に発症することが多いです。その後急速に、皮膚の下に炎症が広範囲に広がると「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を起こす場合があり、さらに細菌が血液に乗って全身に運ばれてしまうと「敗血症(はいけつしょう)」という重篤な状態に進行してしまうことがあります。

また、気道から感染すると、風邪のような症状がみられ、気管支炎や肺炎、副鼻腔炎などを起こすこともあります。

高齢者など免疫力の低下している方や糖尿病などの基礎疾患のある方では、特に重症化する危険性あります。

 

● 予防法

 ペットとの節度あるふれあいを心がけ、咬まれないように気をつけましょう。

 ペットへの口移しやキスなどは大変危険ですのでやめましょう。

 猫の爪はこまめに切りましょう。

 

 

猫ひっかき病

「猫ひっかき病」は、バルトネラ・ヘンセレという細菌による、人と猫の共通感染症です。

 

● 感染経路

バルトネラ・ヘンセレは、猫の赤血球の中に存在しています。この菌を持った猫に咬まれたり、引っ掻かれたりすることで、皮膚から感染します。また、この菌を持った猫を吸血したネコノミから感染する場合もあります。特に3歳以下の子猫で保菌率が高く、西日本や都市部など比較的暖かい地域での発生が多いとされていますが、全国的に発生している病気です。

 

● 症状

引っ掻かれたり咬まれたりしてから1週間前後で、その部分に丘疹(ブツブツ)や水疱(水ぶくれ)ができたり、化膿や発熱・頭痛を伴うこともあります。その後、リンパ節が痛くなったり腫れたりする場合もあります。

健康な人の予後は良好で、数週間〜数ヶ月症状が続く場合もありますが、多くは自然に治ります。免疫力が低下している人や基礎疾患がある人では重症化することもあります。

 

● 予防法

 ペットとの節度あるふれあいを心がけ、引っ掻かれないように気をつけましょう。

 猫の爪はこまめに切り、定期的のノミの駆除や予防をしましょう。

 

 

カプノサイトファーガ感染症

「カプサイトファーガ感染症」は、犬や猫の口の中に常在している「カプノサイトファーガ」という細菌による感染症です。

 

● 感染経路

猫の口の中に普通に見られる細菌で、主に咬まれたり引っ掻かれたりすることで感染します。まれに傷口を舐められて感染することもあります。

 

● 症状

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などが主な症状です。まれに病原菌が血液に乗って全身に運ばれてしまうと敗血症や髄膜炎を起こしたり、播種性血管内凝固症候群(DIC)という危険な状態やショック、多臓器不全などに進行してしまい、死に至る場合もあります。

 

● 予防法

 ペットとの節度あるふれあいを心がけ、咬まれたり引っ掻かれたりしないように気をつけましょう。

 特に体に傷がある場合には、傷口を舐められないように気をつけましょう。

 

 

トキソプラズマ症

トキソプラズマ症」は、猫の糞便などに排出されるトキソプラズマという原虫(微生物)による感染症で、妊婦さんが感染すると胎児に影響をもたらす危険性があります。

 

● 感染経路

猫の糞便中には、トキソプラズマの「オーシスト」と呼ばれる状態のものが排出され、これを、猫のトイレ掃除の際や、ガーデニングなどの土いじりを介して口から取り込んでしまうことによって感染します。また、豚や鳥類にも感染するため、十分に加熱されていない豚肉や鶏肉を食べてしまったり、猫に生肉を与えることでも感染する恐れがあります。

 

● 症状

妊婦中の方が初めてトキソプラズマに感染すると、胎児にも感染が及び、死産や流産を招いたり、先天性トキソプラズマ症(水頭症、神経・運動障害など)を引き起こす恐れがあります。

健康な大人や子供が初めて感染した場合、多くは無症状ですが、トキソプラズマが体の中に潜伏し、免疫力が低下した時に脳炎や肺炎を引き起こすことがあります。

 

● 予防法

 飼育している猫がトキソプラズマに感染しているかどうかは、動物病院で調べることができます。また、妊婦さんは妊婦健診の際などに、任意で検査を受けることが可能です。

 陽性の猫や屋内外を自由に出入りする猫を飼育している場合は、糞便の処理に特に注意しましょう。糞便の処理は、妊娠中の方や免疫力の低下している方以外の人が行いましょう。

 オーシストは通常の石鹸や消毒薬は効きにくく、猫の食器やトイレの消毒には熱湯消毒が有効です。(60℃ 30分、80℃ 1分、100℃ 数秒間)

 豚肉や鶏肉は十分に加熱し、猫に生肉は与えないようにしましょう。

 

 

猫と人の共通感染症を防ぐために

 

1.猫の身の回りを清潔に保ちましょう

ブラッシングや爪切りなどをこまめに行い、トイレや寝床も常に清潔にしておきましょう。

毛布やタオルなどは細菌が増殖しやすいので、洗濯をこまめに行いましょう。

 

 

2.排泄物はすぐに処理しましょう

糞の中で病原体が増殖したり、糞や尿が乾燥すると中の病原体が空気中に漂ってしまうことがあります。排泄物はすみやかに処理し、直接触れたり吸い込んだりしないように気をつけましょう。

 

3.手を洗いましょう

猫と触れ合った後や排泄物を処理した後には、石鹸を使い十分に手を洗いましょう。

また、外にいる動物から土を介して感染する病気もあるため、動物が排泄を行いがちな砂場や公園の花壇などは注意が必要です。特に子供が砂場で遊んだ後や、ガーデニングなどで土いじりをした後は、よく手を洗うようにしましょう。

 

 

4.過度なスキンシップは避けましょう

猫に口を舐めさせたり、口移しでごはんを与えたり、スプーンや食器を共用するなど、過度なスキンシップは感染リスクが高まります。公衆衛生的な観点から見ると、ペットと同じベッドで寝ることも避けた方がよいです。愛するペットとは適切な距離感を保ちつつ、愛情を注ぐようにしてください。

 

 

猫と人の共通感染症の多くは、人が感染しても発熱や倦怠感など、インフルエンザをはじめとする他の病気の症状に似ているため、病院で診察を受けてもすぐには診断が難しい場合があります。治療を受けているにもかかわらず、症状がなかなかよくならない場合には、人獣共通感染症の可能性も考慮し、お医者さんに相談してみましょう。

 

 

参考:動物由来感染症ハンドブック2022(厚生労働省)

 

 


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福永めぐみ先生

福永 めぐみ

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