動物病院を受診した際、「ステロイド治療が必要です」と言われると、不安に思われる飼い主さんもいらっしゃるかもしれません。ステロイドは、猫のさまざまな病気に対して非常に効果的なお薬ですが、その効果と同時に副作用についても理解しておくことが大切です。

 

今回は、猫のステロイド治療について、その種類、どんな時に使うのか(適応)、そして気をつけたい副作用について詳しく解説します。

 

 

ステロイドの種類

ステロイドとは、猫の体内で作られる副腎皮質ホルモンの一種で、それを人工的に合成したものがステロイド剤です。作用の強さや持続時間によってさまざまな種類があります。

 

猫によく使われる主なステロイドは以下の通りです。

 

プレドニゾロン

最も一般的に使用される経口(飲み薬)のステロイドです。比較的短期間で効果が現れ、様々な炎症性疾患や免疫介在性疾患に幅広く用いられます。錠剤や液剤などがあります。

デキサメタゾン

プレドニゾロンよりも強力で、効果の持続時間も長いステロイドです。重度の炎症や緊急時などに使用されることがあります。注射薬としても利用されます。

トリアムシノロン

皮膚疾患の治療などで使用されることがあります。注射剤として、効果が長く持続するタイプ(持続性ステロイド)もあります。

ヒドロコルチゾン

作用が比較的弱く、皮膚の塗り薬や点耳薬、点眼薬など、局所的に使われることが多いステロイドです。

 

これらの他にも、特定の疾患や投与経路に合わせたさまざまなステロイド製剤があります。獣医師は、猫の病状や体の状態、治療目標に合わせて最適なステロイドの種類と投与方法を選択します。

 

 

 

 

ステロイドの適応(どんな時に使うの?)

ステロイドは、その強力な作用から、非常に幅広い疾患に適用されます。

猫での主な適応症は、以下の通りです。

1.炎症性疾患

・皮膚炎 : アレルギー性皮膚炎、好酸球性プラーク、アレルギーなど、かゆみや炎症を伴う皮膚疾患の症状を抑えるために使用されます。

猫喘息(気管支炎): 呼吸器の炎症を鎮め、気道の収縮を和らげ、呼吸を楽にします。

炎症性腸疾患 (IBD) : 腸の慢性的な炎症を抑え、下痢や嘔吐などの消化器症状を改善します。

関節炎 : 炎症による痛みや腫れを軽減します。

口内炎 : 慢性的な口内炎(Feline Chronic Gingivostomatitis: FCGS)の炎症と痛みを緩和するために使用されることがあります。

 

2.自己免疫疾患

・猫の免疫システムが自分の体を攻撃してしまう病気(例:自己免疫性溶血性貧血など)において、免疫の過剰な働きを抑制するために使用されます。

 

3.アレルギー反応

・重度のアレルギー反応や、蜂刺されなどによる強い腫れや痒みを抑えるために使用されます。

 

4.特定の腫瘍(癌)

リンパ腫などの特定の悪性腫瘍(癌)に対して、抗がん作用や炎症抑制作用を期待して使用されることがあります。食欲不振や元気消失などの全身状態の改善にも寄与することがあります。

 

 

 

 

知っておきたいステロイドの副作用

ステロイドは非常に有効な薬ですが、その強力な作用ゆえに、様々な副作用を引き起こす可能性があります。とくに、長期間の投与や高用量での投与の場合には注意が必要です。

 

比較的よく見られる副作用

多飲多尿

・水をたくさん飲み、おしっこの量が増えます。これはステロイドの作用で腎臓での水の再吸収が抑制されるためです。

 

多食・食欲増進

・ 食欲が増し、体重が増えることがあります。

 

 

長期使用や高用量で特に注意が必要な副作用

免疫力の低下

・免疫を抑制する作用があるため、感染症(細菌、真菌、ウイルスなど)にかかりやすくなったり、既存の感染症が悪化したりするリスクが高まります。特に、潜伏している猫ヘルペスウイルス感染症が再燃し、結膜炎鼻炎の症状が出ることがあります。

 

糖尿病の誘発・悪化

・血糖値を上げる作用があるため、糖尿病を発症させたり、既存の糖尿病を悪化させたりすることがあります。猫は犬に比べて糖尿病を発症しやすい傾向があります。

 

筋力低下・皮膚の脆弱化

・皮膚が薄くなり、傷つきやすくなったり、筋肉が痩せたりすることがあります。

 

副腎機能の抑制

・外部からステロイドを投与し続けることで、本来体内でステロイドホルモンを産生している副腎の機能が低下することがあります。急にステロイドの投与を中止すると、重篤な副腎機能不全を引き起こす可能性があるため、投与を中止する際は獣医師の指示に従って徐々に減量する必要があります。

 

胃腸潰瘍

・胃腸の粘膜の保護作用を低下させるため、潰瘍ができやすくなることがあります。

 

行動の変化

・落ち着きがなくなる、興奮しやすくなる、攻撃的になるなどの行動の変化が見られることがあります。

 

肝臓への影響

・長期投与で肝酵素の上昇が見られることがあります。

 

 

 

 

飼い主さんにできること

 

猫のステロイド治療を行う際には、以下の点に注意しましょう。

 

指示された用量・期間を厳守する

・飼い主さんの判断で勝手に量を増やしたり減らしたり、中止したりしないでください。とくに自己判断での急な中止は非常に危険です。

 

副作用のサインに注意する

・多飲多尿、食欲の変化、元気の変化、被毛や皮膚の状態など、愛猫の様子をよく観察し、気になることがあればすぐに獣医師に伝えましょう。

 

定期的な健康チェック

血液検査尿検査などで、副作用の早期発見に努めます。とくに糖尿病の兆候(多飲多尿、体重減少など)には注意が必要です。

 

他の薬との併用は必ず相談する

・他の病気で受診する際や、サプリメントなどを与える前には、必ずステロイドを服用していることを伝え、獣医師に相談してください。

 

ステロイドは、適応の病気においては、猫のQOL(生活の質)を大きく向上させることのできる非常に有効な薬です。副作用について正しく理解し、獣医師と協力しながら、愛猫にとって最適な治療を進めていきましょう。不安なことや疑問に思うことがあれば、遠慮なく担当の獣医師に質問し、納得した上で治療を進めていきましょう。

 

 

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福永めぐみ先生

福永 めぐみ

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