日本には“犬は人につき猫は家につく”ということわざがあります。大辞林によると「犬は家人になつき、引っ越してもついて行くが、猫は人よりも家の建物・場所になじむ」と説明されています。このように猫は飼い主さんに対して興味が薄いと信じられていますが、そもそも自分の飼い主さんとそれ以外の人を認識することができるのでしょうか。

猫は飼い主さんを認識できる?

Beautiful cat

猫が飼い主さんのことを認識できることができるのかどうか、聴覚と視覚から調べた研究がありますのでご紹介します。

猫は人間の顔を認識できない

この研究では、若い猫がトレーナーから様々な芸やトリックの訓練を受けた後に、トレーナーの写真と知らない人の写真を並べ、区別ができるか調べています。犬は高確率でトレーナーを選ぶことができるそうですが、猫はトレーナーを区別することはできなかったそうです。

ちなみに同じ研究で、いろいろな猫の写真を並べた中に、一緒に暮らしている同居猫の写真を混ぜて選ばせたところ、多くの猫が同居猫の写真を選んだそうです。この研究から、猫は猫の顔は区別できても人の顔は区別できない、ということがわかりました。

猫は飼い主さんの声を認識することができた

Beautiful fluffy cat breeds Persian Angora closeup. A horizontal frame.

2013年に東京大学が発表した研究では、飼い主さんの姿が見えないところで、飼い主さんと知らない人が猫の名前を呼んだときに、猫がどの様なリアクションを取るか調べました。飼い主さんが呼びかけた時の方が、頭を向ける、耳を動かすなど、リアクションが大きく出たことから、猫が飼い主さんの声を認識していることが明らかになりました。

飼い主さんを認識する上で大切なのは嗅覚?

これらの研究結果から、猫は飼い主さんのことを視覚では認識できないものの、聴覚では認識できるということがわかります。しかし実際に猫がお互いを認識するときに一番頼りにするのは嗅覚です。猫はお互いの臭いを覚えるために鼻を近づけたり、お尻を嗅いだりします。

私が調べた限り嗅覚に関する研究は見つかりませんでしたが、猫は飼い主さんの脱いだシャツの上に座るのが好きだったりすることから、人の認識にも嗅覚を使っていることが伺えます。

猫ちゃんと飼い主さんの関係性を示すエピソード

動物病院でのエピソード

 

ここまでで2つの研究を紹介しましたが、これらのレポートを読む前から、私は猫が飼い主さんを認識できると確信を持っていました。その理由は動物病院での猫の態度です。知らない人と飼い主さんでははっきりと違いがあるのです。

例えば、採血をする際にも飼い主さんに立ち会ってもらうと穏やかに行えたり、入院中に飼い主さんが面会に来ると、飼い主さんが病院に入った瞬間に声色を変えて返事をしたりすることがあります。また反対に、飼い主さんの前ではわがままな猫は、注射をするときにぐねぐね動いてしまうので、少し離れてもらうこともあります。 

自宅でのエピソード

Cute funny cat near door at home

また動物関係の仕事をしていない方でも、愛猫が自分を認識していると感じるエピソードは沢山あるでしょう。私が一緒に暮らしていた歴代の猫たちは、普段私が家に帰ると玄関まで迎えに来てくれるのですが、友達と一緒だったりするとお迎えがありません。おそらく足音から知らない人がくることに気がつき、警戒しているのでしょう。足音だけでも飼い主を認識していることがわかります。その他にもエンジン音から車種を聞き分けて、好きな人の帰りだけ迎えに来る猫もいるようです。

猫は飼い主さんの感情を読むことができるのか

また飼い主さんが落ち込んでいたり具合が悪いときに、愛猫が寄り添ってくれたという経験がある方も少なくないでしょう。私自身も風邪をひいて寝込んでいると、いつも以上に猫が近くにやって来る気がします。ある古い研究では、人が落ち込んでいるとき、猫はより頭を擦り付ける行動が増えたと記録されています。この研究は落ち込んだ気分が愛猫に対してどのような行動の変化を与えるかを調べた研究ですが、猫側も飼い主さんの気分を読んで行動が変化することが示唆されます。 

 

 

犬と人の関係に関する研究は沢山ありますが、猫はまだまだ限られた報告しかありません。猫の飼い主さんにとっては当然、と感じることでも科学的に実証するのは難しいのですね。猫は環境に影響されやすく、リアクションが小さいのが研究の障害になっているのでしょう。今後さらなる興味深い報告が発表されることを期待します。

 

※参考資料

Vocal recognition of owners by domestic cats (Felis catus). Anim Cogn(2013)

Dogs, but not cats, can readily recognize the face of their handler. JOV(2005)

How Depressive Moods Affect the Behavior of Singly Living Persons toward their Cats. Anthrozoos(1999)

 

★猫の気持ちに関する専門家監修「にゃんペディア」記事も、あわせてご覧ください。

猫の夢☞「猫も夢を見るの?

しっぽ☞「しっぽを振るときの猫の感情とは?

鳴き声☞「鳴き声から読み取れる、猫のきもち

サイン☞「猫が甘えたいときのサインを見逃さない!

寝姿☞「寝相・寝姿からわかる猫の気持ち

ゴロゴロ音☞「ゴロゴロという音に隠された猫のきもち

しぐさ☞「可愛い仕草からひも解く、猫ちゃんの気分とは

天気☞「お天気で変わる猫ちゃんの気分

見つめる☞「猫がじっと見つめてくるとき、一体なにを考えているの?

怒り☞「猫ちゃんの怒りのサインを見逃さないで!

寝場所☞「猫の寝る場所からわかる、猫のあなたへの好感度

 

 

★「うちの子」の長生きのために、気になるキーワードや、症状や病名で調べることができる、獣医師監修のペットのためのオンライン医療辞典『うちの子おうちの医療事典』をご利用ください。

例えば、うちの猫の「行動」など、さまざまな切り口で病気やケガを知ることができます。  健康な毎日を過ごすため、知識を得ておきましょう。

 

「行動」から考えられる病気を調べてみる

足をあげる

歩かない

ふらつく

性格が変わる

グルーミングが減った

グルーミングが増えた

Tokyo Cat Specialists 院長

山本 宗伸

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