猫は毛づくろいをする動物のため、自分の毛玉を吐き出すことがあります。このような習性があることや、体の構造上、人間に比べると吐きやすい動物であると言われています。しかし、何かしらの病気が原因で嘔吐をする場合もあるので、普段から毛玉を吐く頻度や食欲の有無などについて、よく観察しておくことが大切です。

 

猫の嘔吐の原因

猫の嘔吐は、目安として1週間以内に症状がおさまる「急性嘔吐」と、長期間続く「慢性嘔吐」の二つに大きく分けられ、健康な状態でも生理現象の一部として嘔吐がみられる場合もありますが、病気が原因で嘔吐する場合もあり、その原因は非常に多岐に渡ります。

嘔吐の原因として挙げられるのは、食事に関連するもの(長すぎる空腹、食べ過ぎ、ゴミ漁り、人の食べ物を盗食、フードの急な変更など)や、消化管内寄生虫症、細菌やウイルスによる胃腸炎、異物の誤食中毒膵炎腎臓病甲状腺機能亢進症などが代表的です。

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嘔吐による受診の目安

動物病院への受診の目安としては、「1回嘔吐しただけで、元気・食欲もあり」という場合には、まずはおうちで様子をみられても良いでしょう。しかし、

 何回も繰り返し吐く

 ぐったりしている

 食欲がない

 下痢もしている

などの場合には、中には緊急性の高い病気の可能性もあるので、早めに動物病院を受診しましょう。

 

 

動物病院で嘔吐の原因を調べる

猫の嘔吐の原因は、一過性のものから重度の病気までさまざまです。

診断の際には、飼い主さんからの情報が重要な手がかりとなります。

 

動物病院では以下のような項目について、問診で確認します。

 

1.  嘔吐が始まった時期

2. 嘔吐の回数

3. 嘔吐のタイミング(例:食後、空腹時)

4. 吐物の内容(例:胃液、フード、血が混ざった液体)

5. 嘔吐以外の症状(例:元気・食欲がない、下痢をしている、尿量が多い)

6. 誤食の可能性(例:おもちゃ、人の食べ物、人の薬など)

7. 持病の有無・服用中の薬について

 

問診と身体検査をした上で、さらに詳しい検査が必要な場合には、一般的に以下のような検査を行います。

特に、「何度も繰り返し嘔吐する」「元気や食欲がない」「下痢を伴う」「吐物に血が混ざる」「お腹を痛そうする」などの場合には、詳しい検査が必要となるケースが多いです。

 

● 血液検査:全身の状態を把握したり、貧血や脱水がないかを調べます。

● レントゲン検査:内臓の病気や異物の誤食がないかを確認します。胃や腸に物が詰まってしまう「腸閉塞」が疑われる場合には、バリウム検査を行うことがあります。

● エコー検査:胃や腸の状態を確認したり、他の臓器に異常がないかを調べます。

● 糞便検査:特に下痢を伴う場合に行います。

● 内視鏡検査:胃や腸の組織を採取して検査をすることで診断につながります。また、胃の中に異物がある場合には、内視鏡で取り除く場合もあります。

 

 

どのように治療するの?

治療法は、嘔吐の原因によりさまざまです。

検査の結果、明らかな異常がみられない急性嘔吐の場合には、対症療法で数日様子をみることもあります。嘔吐の原因となる病気が見つかった場合には、その病気の治療を開始します。

治療法は病気により異なりますが、吐き気を和らげる目的として、以下のような薬が処方されることがあります。

 

嘔吐がある時に動物病院で処方・使用される薬

①制吐剤(吐き気止め)

嘔吐そのものを抑制する薬です。

嘔吐は、脳にある「嘔吐中枢」という領域が刺激されることで起こります。嘔吐中枢が刺激されると、胃の逆流運動やお腹の収縮が起こり、胃の中にあるものを口から吐き出させるための反応が生じます。メトクロプラミドやマロピタントは、この嘔吐中枢に作用して、嘔吐を抑制します。

 

<代表的な制吐剤>

 メトクロプラミド(製品名:ボミットバスター(共立製薬))

嘔吐中枢や消化管に作用して、嘔吐を抑制する作用があります。また、胃腸の働きを活発にして、食べ物を胃から腸へ送り出すのを助けます。これにより、吐き気や食欲不振などを改善することができます。内服薬と注射薬があります。

使用上の注意

・副作用として、まれに流涎(よだれ)、不穏状態(警戒心が強く落ち着きがなくなる)、四肢や頭部の振戦(ふるえ)、運動失調などの症状が現れることがあります。

・成分に魚由来ペプチドを使用しているため、魚アレルギーのある猫では注意が必要です。

 

 

②胃酸分泌抑制薬(胃酸の分泌を抑える薬)

胃酸は、胃で分泌される胃液の主成分の一つです。とても強い酸性のため、食べ物と一緒に入ってきた細菌を殺菌したり、食物中のタンパク質を消化する役割をもちます。しかし、胃酸が何らかの原因で過剰に分泌されたり、胃の状態が良くない場合には、胃酸によって胃を荒れさせてしまう恐れがあり、胃炎や胃潰瘍の原因にもなります。

胃酸分泌抑制薬は、この胃酸の分泌を抑える薬です。これにより、胃炎や胃潰瘍が改善したり、胃の痛みを和らげたりすることができます。

 

<代表的な胃酸分泌抑制薬>

 ファモチジン、オメプラゾール

胃酸の分泌を抑えることで、胃痛や胃もたれなどの症状を緩和したり、胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎などの消化管の不調を改善する効果があります。

胃酸分泌抑制薬には制吐作用はありませんが、胃酸の分泌を調節することで健康な胃の状態を保つことができ、その結果嘔吐が起こらない、ということが期待できます。

ファモチジンは、人用の薬で有名な「ガスター10」と同じ成分です。

 

③消化管粘膜保護薬

スクラルファート(製品名:アルサルミン)

胃や十二指腸の潰瘍・びらんや、食道炎がある場合に処方されます。

消化管の粘膜に薬の膜のようなものをつくることで、消化液(胃酸・ペプシン・胆汁酸)から荒れた粘膜を保護するはたらきをもちます。

この薬の特徴は「空腹時」に「1日2〜3回」投与することです。

食事や他の薬と一緒に与えてしまうと、食事の吸収を妨げたり、薬の効果を低下させてしまう可能性があるので、2時間程度間隔を空けて投与してください。

副作用はあまりない薬ですが、まれに便秘になることがあります。

 

まとめ

嘔吐の原因は本当にさまざまあり、中には緊急性の高い病気が原因となっているケースもあります。特に繰り返し嘔吐をしたり、元気がない食欲がない下痢をしているなど他の症状を伴う場合には、はやめに動物病院を受診するようにしましょう。

 

薬が処方されたら、嘔吐が改善しても、すぐに薬を中断させるのはやめましょう。

自己判断せず、獣医師に指示された用法・用量を守ることが重要です。

また、愛猫が処方された薬をうまく飲んでくれない場合や、吐き出してしまう場合には動物病院に相談してみましょう。上手に飲ませるポイントを教えてもらったり、注射薬で対応してもらえる場合があります。

 

参考

CAP 2018(緑書房)

SA Medicine BOOKS 猫の治療ガイド2020 私はこうしている(エデュワードプレス)

 

 


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「吐くとき」に考えられる病気

 

 

 


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福永めぐみ先生

福永 めぐみ

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