肥満細胞腫という病気をご存知ですか?名前をみて肥満による病気だと思う方は多いかもしれません。
しかし実は肥満とは全く関係ない腫瘍の一種です。
腫瘍の中でもかなり発生率が高く約2〜15%と言われていて、発生部位によっては治療が大変困難になることもあります。ここでは症状や治療法などを解説します。
肥満細胞腫ってなに?
肥満細胞とは
血球系の細胞で正常時でも身体の皮膚や粘膜など全身の組織に広く分泌している細胞です。肥満とは関係なく、細胞の姿が肥満を想像させることからこの名前がついたといわれています。
この肥満細胞が腫瘍化したものが肥満細胞腫です。
品種ではシャムに多いと言われており、オスメスで発症の差は確認されていません。
肥満細胞腫のタイプ
肥満細胞腫は大きく分けて
皮膚にできる「皮膚型肥満細胞腫」
内臓にできる「内臓型肥満細胞腫」
に分けられそれぞれ特徴や予後は異なります。
皮膚型肥満細胞腫
猫の皮膚の表面に腫瘍が発生します。
皮膚型の肥満細胞腫はさらに「肥満細胞型」と「異形型(非定形または組織球型)」に分類できます。
肥満細胞型
中高齢(9―11歳)に多く発生します。これは細胞の形によって高分化型と未分化型に分けられます。
高分化型は皮膚型肥満細胞腫の約60%を占め、性質としては良性腫瘍に近い動きをします。
一方、未分化型はその名の通り、細胞に細胞分裂像が見られるような非常に未熟な細胞が集まった腫瘍です。
腫瘍細胞はそれが未熟であればあるほど悪性度が高い傾向があるので、一般的には分化型より未分化型のほうが悪性度が高いといわれています。
異形型
皮膚型肥満細胞腫の約10〜20%ほどを占めます。6週齢〜4歳の若齢の猫に発生し、自然に小さくなることがしばしばあります。小さくなるまでの期間は診断から4〜24ヶ月と報告されています。
内臓型肥満細胞腫
全体的に悪性度が高い腫瘍です。これには「脾臓型」と「消化器型」があります。
脾臓型(ひぞうがた)
「脾臓」という臓器聞きなれない方も多いのではないでしょうか。
脾臓とは猫をばんざいさせたときの左の肋骨の下あたりにある臓器です。主に赤血球などを蓄えたり、細菌や異物に対抗するリンパ球を作ったりしています。
この脾臓にできる肥満細胞腫が全体の15〜25%を占めています。平均発症年齢は10歳です。
肝臓や肺、腸やリンパ節などに転移が多く、予後が悪いのが特徴です。また皮膚に転移、または同時に発生することもあります。
消化器型肥満細胞腫
悪性度の強い腫瘍です。平均発症年齢は13歳と、高齢の猫に起こる腫瘍です。品種や性別による差は確認されていません。小腸に腫瘍を形成することが多く、予後は良くありません。
内蔵型肥満細胞腫に比べ皮膚型の方が転移は少ないといわれていますが、悪性度の高い場合は全身に転移する可能性もあります。皮膚に多発している場合は内臓からの転移も考えられるので調べる必要があります。
どんな症状がでるの?
皮膚型肥満細胞腫
首や体幹にも発生しますが、頭部、特に耳介や耳の根元によく発生します。見た目は脱毛したできものとして見られることが多いです。1つだけのこともあれば、全身の皮膚に多発することもあります。
内臓型肥満細胞腫
元気消失、体重減少、食欲不振、嘔吐や血便などの消化器症状が見られます。また腫瘍は広範囲へ広がり、貧血や胸水などを引き起こすことがあります。
また、肥満細胞の中にはアレルギー症状を引き起こすヒスタミンやヘパリンといった物質が含まれています。
腫瘍化した肥満細胞が何かのきっかけで壊れてしまうと、この物質が放出されてしまい皮膚に発赤や強いかゆみ、むくみなどが起こることがあります(ダリエ徴候)。
ヒスタミンが過剰に放出されることにより胃酸が過剰に分泌され胃潰瘍になることもあります。
肥満細胞腫の診断方法
肥満細胞腫は細胞診という方法で比較的容易に診断をつけることができます。
体にできた腫瘍に細い針を刺して細胞を採取して顕微鏡で見て診断します。
肥満細胞腫を顕微鏡で観察すると、特徴的なツブツブの細胞が見られます。ただし、その細胞がみにくい肥満細胞腫もありその場合は細胞ではなく腫瘍の塊を採取して検査する必要があります。
肥満細胞腫の治療方法は?
皮膚型肥満細胞腫
一番の選択肢は腫瘍部分の切除です。腫瘍部位のみならず、出来るだけ広い範囲を切り取る必要があります。周りの皮膚ごと切除することで再発率を減らすことができるのです。
しかし、完全に取り除けたとしても再発する可能性ゼロではありません。腫瘍が再び発生する確率は0〜24%、癌が全身に転移してしまう可能性は0〜22%です。再発が起こるとしたら6ヶ月以内に再発するとされています。
内蔵型肥満細胞腫
脾臓の摘出手術により生存期間は12〜19ヶ月と格段に伸びるという良好な結果が出ています。
一方で、消化器型肥満細胞腫は転移していることが多く、予後は非常に悪いです。
もし手術が可能であれば、腫瘍の周りを約5〜10センチ余分に切除をする必要があります。
近年では外科手術に加えて化学療法も行われるようになってきました。抗がん剤や特定の悪性分子を狙いその機能を抑える分子標的薬という薬が使用されるようになりました。
肥満型細胞腫は、はっきりと原因がわかっていないため有効な予防方法がありません。
皮膚型の腫瘍は触って分かることもあるので毎日猫の体を触って異変がないかチェックしてあげてください。
猫が体を触られるのを嫌がる場合は少しずつマッサージをして慣らすことが大切です。猫のマッサージの方法はこちらで紹介していますので合わせて読んでみてください。
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