ネコちゃんのご家族からよく聞くお悩みの一つに、「病院に行きたくても、なかなかキャリーケースに入ってくれない」「病院でシャーシャー怒ってしまうので、しっかり診てもらえないのでは?」というものがあります。

 

猫にとって、住み慣れた縄張りを離れ、知らない人(獣医師)に体を触られるのは、とても苦手なことでしょう。

 

猫の性格が診察にどう関わるのか、そして少しでもストレスを少なく受診するための方法をお話しします。

 

 

 

 

性格が診療に与える「特有の影響」

猫は「隠す」のが得意な動物ですが、極度の緊張は体の中で劇的な変化を引き起こします。

 

〇 数値の変化

緊張した猫は、交感神経の影響で血糖値が急上昇します。

これが「糖尿病」による高血糖なのか、単なる「興奮」によるものかの区別が難しくなることがあります。また、心拍数も上昇するため、心雑音の聞き分けが困難になることもあります。

 

〇 痛みの隠蔽

恐怖が勝っている状態では、普段痛がっている場所を触っても平気なふりをしたり、逆にどこを触っても激しく抵抗したりするため、正確な痛みの部位の特定が難しくなります。

 

〇 検査の安全性

暴れてしまう子の場合、無理に採血やレントゲンを強行すると、呼吸困難を引き起こしたり、怪我をしたりするリスクがあります。

 

 

 

 

受診が難しいと感じるネコちゃんへのアドバイス

「怒るから」「怖がるから」と受診を諦める必要はありません。

猫の習性を利用した対策を準備しましょう。

 

① 「洗濯ネット」を活用してみましょう

病院へ行く際、ネコちゃんを洗濯ネット(目が粗めのもの)に入れた状態で、キャリーに入れてください。「閉じ込めるなんて可哀想」と思われるかもしれませんが、実は猫にとってネットの中は、体が適度に圧迫されて「隠れている」安心感を得られる場所です。ネット越しであれば、診察や注射も猫をパニックにさせず、安全に行えることが非常に多いのです。

 

② キャリーバッグを「家具」にする

通院の時だけキャリーを出すと、猫は瞬時に察知して隠れてしまうことが少なくありません。普段から部屋に置いて中でおやつをあげたり、寝床として使ってみたりして、「キャリー=安全な場所」という認識を持ってもらうようにすると、キャリーへの移動がスムーズになります。

 

③ 「フェロモン剤」の活用

猫を落ち着かせる「フェロモン(フェリウェイなど)」のスプレーや拡散器があります。来院の30分前にキャリー内にスプレーしたり、病院の待合室でキャリーをタオルで覆ってあげたりするだけで、不安度を下げることができるとされています。

 

 

 

 

「家での姿」が診断を支える

病院で全く触らせてくれないネコちゃんの場合、ご家族が撮った動画や写真が診断の手がかりとなります。

 歩き方やジャンプの様子

 食べている時の様子

 トイレの回数や姿勢

 

ネコちゃんが診察室で怒るのは、自分を守るための「一生懸命な表現」です。

最近では、重度の怖がりさんのために、来院前に自宅で飲ませる「事前投薬(抗不安薬)」という選択肢も一般的になっています。

これを使うことで、穏やかに診察を受けられる子も少なくありません。

性格的に受診に不安があるときには、動物病院で一度相談してみましょう。

 

 

 

おうちでできるキャリートレーニング

ネコちゃんをキャリーに入れる作業は、ご家族にとっても試練になりがちですよね。ここで苦戦して時間がかかってしまうと、出発前に猫の興奮状態(ストレス)がピークに達してしまいます。
スムーズに、そして「戦い」にしないための練習と当日のコツをお伝えします。

 

〇 キャリーを「嫌な予感の箱」にしない

まず大切なのは、キャリーバッグを日常の風景に溶け込ませることです。

 

 出しっぱなしが基本

押入れの奥から出す音が聞こえた瞬間、猫は敏感に察知して隠れてしまいます。普段からリビングの隅に置き、「いつでも入れる安心できる場所」にしておきましょう。

 

 「おいしい場所」にする

キャリーの中に大好きなフードを数粒入れておきます。自ら入って食べるという経験を積み重ね、「あの中には良いものがある」と思ってもらうことも効果的です。

 

 上部が開くタイプを選ぶ

キャリーを選ぶ際には、上の蓋がパカッと開くタイプがおすすめです。病院で「引っ張り出す」必要がなく、ねこちゃんを入れたまま蓋を開けて診察することもできるため、恐怖心を軽減することができます。

 

 

〇 当日、一瞬で入れる「後ろ向き作戦」

自らキャリーに入ってくれない猫の場合、頭から入れようとすると、手足を踏ん張って抵抗されてしまいます。猫の視界にキャリーの入口を入れないようにするのがポイントです。

 

1. キャリーを縦にする

入口を真上に向けて、キャリーを垂直に立てます。

 

2. お尻から入れる

猫の脇の下を持って抱え上げ、お尻からストンとそっと落とし込むように入れます。

 

3. すぐに蓋を閉める

すみやかに蓋を閉じます。

 

※暴れてしまう子の場合は、前述の通り「先に洗濯ネットに入れてから、ネットごとキャリーに入れる」方法が、安全です。

 

 

 

 

〇「移動中」と「待合室」でのひと工夫

キャリーに入れた後も、猫の不安は続いています。

視界をコントロールして不安を和らげてあげましょう。

 

 大きなタオルで覆う

外の景色が見えると恐怖を感じる猫もいます。

厚手のバスタオルでキャリー全体を覆い、視界を遮断してあげてください。

暗いところの方が猫は落ち着きます。

 

 床に置かない

病院の待合室では、キャリーを床に直接置かないようにしましょう。

猫にとって低い位置は敵に狙われやすい不安な場所だとされています。

膝の上や、椅子の上に置くようにするとよいでしょう。

 

 

どうしてもお家で入れるのが難しく、飼い主様が怪我をしてしまうような場合は、動物病院にご相談ください。無理をせず、往診を利用したり、事前に「気持ちを落ち着かせるお薬」をお渡ししたりする方法もあるので、ネコちゃんのために一緒に考えましょう。

 

 

 

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福永めぐみ先生

福永 めぐみ

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