本能だけじゃ「狩り」はできない

猫 狩り

「猫が狩りをするのは本能」といいますが、これは正確ではありません。本能だけじゃ、狩りはできないのです。

学習しないと、獲物は仕留められない

動くものを見ると、追いかけたくなる。捕まえたくなる。これは紛れもない、猫の本能です。
でも、獲物を仕留めるには、あるテクニックが必要です。それは、獲物の後ろから首すじに噛みつき、犬歯で脊髄を貫通させるというもの。「殺しの咬みつき」といわれるもので、これによって獲物は一瞬で命を落とします。猫の犬歯の根元には神経が集中していて、この感覚を頼りに頸椎の骨と骨の間を探り当てるともいわれています。一瞬で相手を絶命させないと、いくら自分より小さなネズミでも、反撃に遭う危険があります。それこそ「窮鼠猫を噛む」で、死にもの狂いで反撃されたら、どんな怪我を負うかわかりません。大切な顔を傷つけられたら、命にも関わります。
この「殺しの咬みつき」は、本能だけではできません。母親から学ばないと、できないのです。
野生では、ある程度子猫が大きくなると、母猫は子猫に獲物を運んできます。初めは、殺した獲物を運び、子猫の前で食べてみせます。そうすることで子猫は「獲物とは、食べるものだ」ということがわかります。
そして次は、半殺しにした獲物を持ち帰ります。動く獲物に子猫は興奮したり、怯えたり。勇敢な子猫は、ビクビクしながらも獲物をつついたりします。その間も母猫は、獲物が子猫に危害を加えないかしっかり見守っています。そして最後は、母猫が獲物を目の前で殺してみせます。

このような母親からの教えがあって初めて、猫は獲物の仕留め方を学ぶのです。こうした学習の場がないと、獲物を仕留めることはできません。動く獲物に興奮して追いかけたり叩いたりすることはあっても、「殺しの咬みつき」を行うことができないのです。それどころか、自分より小さな相手に対して怯える猫もいます。現代にはこのようなヘタレ猫も多いですね(^^;)

ちなみに、獲物の仕留め方を知らない猫でも、獲物をもてあそんでいるうちに死んでしまうことはあります。しかしそうした場合も、「これは食べ物だ」とは認識していないので、食べることはありません。飼い猫の場合、小動物をさんざんもてあそんで殺して、食べるのはキャットフードという場合もよくあります。本来は「食べるために、殺す」ものですが、必ずしも結びついていないのが自然の不思議。「食べる本能」と「獲物を捕まえたい本能」は、別物なのです。

本来は捕食者(猫)と被捕食者(ネズミ)の関係である動物も、小さい頃から一緒に育てられると、お互いに仲間と認識して仲良く暮らすことも。

本来は捕食者(猫)と被捕食者(ネズミ)の関係である動物も、小さい頃から一緒に育てられると、お互いに仲間と認識して仲良く暮らすことも。

母親でないと学習効果が下がる?

ちなみにこの「学習」は、母親から学ぶというのが大切なようです。というのも、こういう実験結果があるからです。

あるサインが出たあとにレバーを押すと、食べ物が出てくるという装置があります。そして、その操作方法をマスターしたおとなの猫がいます。
下記の2パターンの組み合わせで実験をしました。

(A) 母猫が操作し、子猫に見させる。
(B) 仲はよいけれど母猫ではないおとなのメス猫が操作し、子猫に見させる。

Aの場合は、子猫は平均4.5日で操作法をマスターしたのに対し、Bの場合は、平均18日もかかったそう。つまり、母猫から学ぶほうが断然早くマスターしたのです
ちなみに、ABのほかに、ほかの猫が操作しているところを一度も見せずに、子猫自身に操作方法を編み出させるパターンも実験されましたが、この場合はいくら時間をかけても操作はできなかったそうです。

この実験結果からは、母親と子猫の関係がいかに密接で大切なものかがわかります。考えてみると、子猫が母猫と暮らす時間は一生のなかでほんの短い期間です。しかしその間に、子猫は生きるために必要な多くのことを学ばなければなりません。母親と子猫のつながりは、私たち人間の想像を超えた何かがあるのかもしれませんね。

母猫と子猫

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日本動物科学研究所所属・編集者&ライター 富田園子
日本動物科学研究所所属・編集者&ライター 富田園子
幼い頃から犬・猫・鳥など、つねにペットを飼っている家庭に育つ。
猫雑誌の編集統括を8年務めたのち、独立。
哺乳類動物学者の今泉忠明氏に師事。
現在は5匹の猫と暮らす。
編集・執筆を行った本に『マンガでわかる猫のきもち』『幸せな文鳥の育て方』(大泉書店)、『フレブル式生活のオキテ』『シュナ式生活のオキテ』(誠文堂新光社)、編集を担当した本に『猫とさいごの日まで幸せに暮らす本』(大泉書店)などがある。5匹の猫と暮らす愛猫家。
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