老猫とのくらし~猫とともに過ごした19年~

ragu

猫とも新聞編集部には、去年の晩夏まで19年を共にした猫さんがいました。名前をラグといいます。
にゃんペディアのSさんに「シニア猫と暮らすってどんな感じなのか、書いてみませんか」と打診を受けたとき、まだムリかな~と思っていました。
けれど、編集部には、その後、新しい猫さんがやってきて、気持ちもようやく落ち着いてきましたので、シニア猫さんと暮らすとはどんなことなのか、思い返してみようと思います。

ラグさんのこと

ラグさん1
ラグは、生粋のノラあがりで築地の生まれです。築地本願寺から歩いてすぐの公園で、近所の猫の面倒を見ていた人から「町のマチコさん」と呼ばれていた母猫から生まれました。交通量の多い場所故、車に撥ねられて入院中にご縁があり、編集部にやってきたのです。
猫の面倒を見ていた人からは「陽気な甘えん坊」と紹介されたラグさんですが、事故にあって痛い想いをした挙げ句、知らない場所に連れられてきて、とんでもないビビリっぷりを発揮しました。病院からの帰りもお漏らしをしましたし、手をさしのべると精一杯口を開いて威嚇したものです。
ですから、最初は腫れ物を触るようなお客さん扱いが続きました。人は人で「怖がらせないように」「少しでも安心できるように」と気を遣いますし、猫の方は猫でなんとなく遠慮がち。少しずつ馴染んだ後でもなんとなく距離を測るような関係でした。

いつの間にやら対等に

ラグさんは、冬場は編集長の寝床に入って眠る猫でしたが、はじめて布団に入ってきた日のことを編集長はいまだに覚えています。
夜中にふと目を覚ますと、ベッドに手を掛けてラグさんがこちらを伺っていました。
お恥ずかしいお話しですが、そのとき、編集長の毛布には〝ほつれ〟があって、そのほつれた糸をラグに向かってひらひらと振ってみせました。
ラグさんは20分くらいかけて少しずつ少しずつ近づいてきて、ようやく糸をその愛らしい丸っこい手でもてあそび、それからおふとんに入ってきたのです。
ラグさんの枕にするために直角に曲げた右腕を微動だにすることもできず、身じろぎもできない夜が続きました。ラグさんの方も、ちょっとでもなにかあると、布団から飛び出す日々でした。
ラグさん3
いつの間に、その緊張感が薄れていったのでしょう。晩年は、編集長が寝返りを打って寄りかかると、ラグさんも眠ったまま両腕両足をつっぱって押し返す有様でした。
猫と飼い主ではなく、ちっちゃい頃から一緒の兄弟か幼なじみ。そんな対等の関係が生まれていたのです。

シニア猫という存在

ちっちゃい頃から…ではありませんが、20年近く一緒にいれば、お互いのことがなんとなくわかるようになります。長年連れ添った夫婦は「あれ、どこ?」だけで通じるといいます。どこのご家庭でも「チンする」といえば電子レンジ、というような〝我が家用語〟があると思います。そんな感じ。
食事中にふと気配を感じて振りかければ、猫さんがドアの前に座っている。「あぁ、ドアを開けてほしいんだな」とわかる。
足もとに来てこちらの顔を凝視したら「撫でろといってるのね」。
猫さんの方もこちらの具合が悪いとそっとそばに来てくれます。ラグさんの場合、本当に具合が悪くて伏せっていると添い寝をしてくれましたが、仮病を使うと寝室に入ってきてもくれませんでした。
なんとなく自分のことをわかってくれている存在がいる。それだけで、人生はことのほか豊かに、幸せになるものです。

後から気づく幸せ

ラグさん2
とはいえ、相手は猫さんですから、人より短い命です。ラグさんも寿命にはあらがえず、ハタチの壁を越えることができずに旅立ちました。
もうラグさんがいた時間は戻りません。
けれど、ラグさんと過ごした時間は失われることのない時間としてちゃんと「あった」のです。愛おしくてかけがえのない時間があったという事実は、誰にも変えられません。
その時間を思うとき、人は「幸せだったなぁ」とようやく気づかされるのです。
余談ですが、編集長は今も右肘を直角に曲げて寝ています。クセになって、治らないんだそうです。

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