猫と映画Ⅵ~人になった猫の話~

猫と人

日本映画大学准教授の伊津野知多による連載『猫と映画』では、猫が重要な役割をはたしている映画を紹介します。一度はタイトルを聞いたことのあるものから、お家でじっくりと味わいたい作品まで…きっとお気に入りの1作に出会えるはず。今回のテーマは、『人になった猫の話』。もしも猫が人間になったら、というファンタジーの明暗両面をご紹介します。安心して楽しめるハッピーな作品と、猫好きは複雑な気持ちにさせられるホラー映画。怖いものが苦手な方はご注意ください。

『ネコのミヌース』(フィンセント・バル監督、2001年、オランダ)

『ネコのミヌース』は、キュートな女性に変身してしまった猫が、気弱な新聞記者を助けて人間社会で大活躍する物語です。ざっくりした木綿のような感触の映画で、素朴な中に独特の味わいがあり、印象に残ります。ミヌースの全身緑のファッションをはじめ、さまざまな小道具がカラフルでかわいらしく、目にも楽しい。色々な柄の猫たちもたくさん登場します。
体は人間でも中身は猫のミヌースには近所の飼い猫たちの「ネコミュニティ」があり、その情報網から町の最新ニュースが手に入ります。ミヌースと知り合ったおかげで、新聞記者のティべはスクープを連発できるようになります。でも、彼はミヌースの猫性全開の行動にはとまどいを隠せません。彼女と仲良くしつつももっと人間らしくなってほしいと思っています。やがて、誰もが善人だと信じている町の有力者の悪事をめぐって、2人は決裂することになります。ティベは結局、ミヌースを本当には信じていなかったのです。ミヌースは鈍感な人間たちのかわりに猫友と隣家の少女を味方につけて奮闘します。猫にしか意味のなかった情報が次第につながって、偽善者の正体が暴かれていき、ティべもようやく自分たちがだまされていたことに気づくのです。
子供向けのように見えるファンタジーですが、この作品には他者をどうしたら理解できるか、異文化が共存するには何が必要か、という重要なテーマが隠れています。お互いに尊重しあい、歩み寄ることが大切だとはわかっていても、違いすぎるものはやはり不気味で遠ざけたくなる。ミヌースの可愛らしい猫性は良いけれど、獣っぽいところは無理。ティべがその距離を克服したとき、2人は結ばれます。

『キャット・ピープル』(ジャック・ターナー監督、1942年、アメリカ)

『キャット・ピープル』は、ハッピーエンドで終わる『ネコのミヌース』を裏返したようなダーク・ファンタジーです。異なる種族が結局は分かり合えなかったという悲劇で、昔のホラー映画ですが、恐怖よりもむしろ哀しみが記憶に残ります。
ヒロインのイレーナは、自分が悪魔にとりつかれたセルビアの猫族の末裔だと信じています。嫉妬や欲望をもつとヒョウに変身し、男性を愛して抱き合うと邪悪な心が芽生えて相手を傷つけてしまうと。確かに彼女には怪しいところがあります。イレーナは猫に好かれず、猫は彼女を見ると毛を逆立ててうなり声を上げます。ペットショップに行けば動物たちが一斉に騒ぎます。ペットのカナリアと遊んでいて死なせてしまいます。彼女の家には鳥を狙う猫の絵などの不思議な調度品があり、かわいい猫ではなく不吉な猫の空気が漂っています。
そんな彼女がオリバーという男性と恋に落ち、2人は結婚。彼女を愛していると言うオリバーですが、彼はイレーナの話を妄想だと思っていて、精神科医に行かせて矯正しようとします。でも、イレーナ自身も自分の身に何がおこっているのかわからないのです。治る病気だと信じたいけれど、何かがおかしい。彼女が不安にさいなまれているのに、健全で無神経なオリバーはとりあってくれず、イレーナはどんどん追い詰められていきます。彼女にはミヌースのような猫友はいません。「正常な」人々に囲まれてひとりぼっちです。やがてオリバーは彼女を持て余すようになり、会社の同僚アリスに心惹かれてイレーナを捨てます。後で手に負えなくなるくらいなら近づかなければ良いのに、自分は一切変わろうとせずに彼女を振り回すオリバーは残酷です。猫好きならばなおさら、イレーナを責める気持ちには決してなれません。イレーナという「化け物」を排除してオリバーとアリスが結ばれるラストに残るざらついた後味は、イレーナの最後のメッセージなのでしょう。
現在のホラー映画のような直接的な描写ではなく、見せないことで観客の想像力をかきたてる演出がすばらしく、映画の技を堪能できる逸品です。わずか70分ほどの長さの中にヒロインの苦悩と哀しみ、そして彼女が周囲に与えてしまう恐怖が凝縮されています。ポール・シュレイダー監督による1981年のリメイクもあるのですが、こちらはエロティックなホラーで、特殊メイクや視覚効果を駆使した映像が見どころの「見せすぎる」作品。別物なので比較するのは酷ですが、オリジナルの情感とスリルにはかないません。

作品情報についてはこちらから…

‘『ネコのミヌース』(フィンセント・バル監督、2001年、オランダ)’

‘『キャット・ピープル』(ジャック・ターナー監督、1942年、アメリカ)’

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日本映画大学 准教授 伊津野 知多
日本映画大学 准教授 伊津野 知多
映画研究者。専門は映画理論、映像論。道端でも映画を見ていても、猫が出てくると反応してしまう。
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