猫と映画Ⅰ~猫が主役~

猫イラスト

日本映画大学准教授の伊津野知多による連載『猫と映画』では、猫が重要な役割をはたしている映画を紹介します。一度はタイトルを聞いたことのあるものから、お家でじっくりと味わいたい作品まで…きっとお気に入りの1作に出会えるはず。

初回は、『猫が主役』。猫がストーリーの鍵を握る映画はたくさんありますが、猫を主役とした映画はほとんどありません。日本では、一斉を風靡したあの映画が有名ですよね。さて、海外では…?

猫が登場する映画はたくさんありますが、本物の猫が主役の映画はめったにありません。なぜなら猫は思い通りにならないからです。そして、猫の魅力はそこにあります。ペットなのに野生的、心が通じているはずなのに言いなりにはなってくれない、そんな矛盾を楽しみながら人間は猫と暮らしてきました。猫を主役にして映画を作ろうとするとき、作り手は必ずこの矛盾を正面から引き受けることになります。何かを無理強いすれば猫の尊厳を奪うことになってしまう(猫権侵害です)。でも言いなりにならない猫だからこそなんとしても主役にしてみたい。動物映画というジャンルは「自然」と「人為」のギリギリのバランスの上に成り立っています。
人間の思い通りの世界を作る方法として絵やCGを使ったアニメーションがありますが、実写映画というメディアはそもそも「自然」と「人為」のハイブリッド。現実の生き物と風景を相手にしてそれを使いながら、現実ではない世界を作ることができるのが実写映画なのです。
今回ご紹介するのは、猫の魅力を十全に引き出しつつ、フィクションの世界の主役にしようとトライした2本の作品です。究極の猫映画として密かに有名な1996年のロシア映画『こねこ』は、真冬のモスクワという都会を舞台にした猫の冒険譚。対するのは、1986年の国内興行収入第1位を記録した畑正憲(ムツゴロウ)監督・脚本の『子猫物語』で、こちらは北海道の大自然を舞台にした猫(と犬)の冒険譚です。まったく違う肌触りの作品ですが、いずれも監督のデビュー作であること、猫に「演技」をさせるために猫を知り尽くしたスペシャリストが全面的に協力していることが共通しています。

映画『こねこ』オープニング映像


どちらも実在の風景(真冬のモスクワの街や四季めぐる北海道の自然)の中に、実在の猫たちがいて、実際にそういう行動をした、ということの真実味と説得力を重視しています。その上に現実ではありえないおとぎ話が展開する面白さが両作品の魅力になっています。 『こねこ』の主人公であるトラ猫のチグラーシャが家をいたずらでめちゃくちゃにするのも、家の窓から下にとまっていたトラックの荷台に落ちてそのまま運ばれていってしまうのも、凍てついた路上で唯一湯気の出ているマンホールの蓋で暖をとるのも、途中で大きなトラ猫に助けられるのも、猫使いと猫がいっしょに珍しい芸をするのも、映画の撮影中に実際に行われたことです。『子猫物語』の主人公である茶トラのチャトランが、小川に浮かんでいる木箱に落ちて急流や滝をくぐり抜けながら流されていくのも、荷物を運ぶ馬の背中に乗るのも、小鹿に寄り添って眠るのも、カモメの群れに襲われて岸壁から海に落ちるのも、撮影中に実際にチャトランがしたことです。彼らの生の仕草や行動を見るからこそ、観客は和んだり、ハラハラしたりします。
しかし中には危険な行動も多く含まれるため、映画のためにどこまで猫にやらせるべきか倫理的な線引きが絶対に必要になります。『子猫物語』ではムツゴロウ動物王国の全面協力があり、動物監督や動物トレーナー、動物飼育担当のスペシャリストたちがいました。『こねこ』では世界でも珍しい猫使いアンドレイ・クズネツォフがいました。彼は映画の中でも大勢の猫と暮らす不思議な男を演じています。『こねこ』の監督のイワン・ポポフは、「猫たちがなぜあんなにも彼のいうことを聞くのか、この映画を撮っている間中観察していても、とうとう私にはわかりませんでした。猫の意思に逆らって何かをやらせるのは不可能なことなのに」(劇場公開用パンフレットより)と語っています。彼らが「自然」と「人為」の間のバランスをとり、作品の限界点を決めたのでしょう。
両作品を比較するなら、猫を擬人化しようとする度合いが『子猫物語』の方が高く、人間が望む「いい話」に収めすぎているような印象を受けます。一方『こねこ』には、猫の自由を担保する「隙間」と「ゆるさ」があります。ラストシーンを見れば、どんな猫使いでも猫をコントロールしきるのは不可能であることが分かります。そういえば実家の猫たちもあんな風でした。

今回ご紹介した作品はこちら…

『こねこ』(イワン・ポポフ監督、1996年、ロシア)
『子猫物語』(畑正憲監督、1986年、日本)

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日本映画大学 准教授 伊津野 知多
日本映画大学 准教授 伊津野 知多
映画研究者。専門は映画理論、映像論。道端でも映画を見ていても、猫が出てくると反応してしまう。
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